第29話 幼女 (改稿済み)
俺は背後にスライムのビュティを召喚された。
「えーっと、彼女が俺の使い魔のビュティです。種族はスライムなんですが、何でも溶かして吸収し、解析するという特性を生かして、薬品づくりをお願いしています。お化粧品も作っていますね」
俺は母上たちや姉上たちに説明する。
しかし、誰一人言葉を発しない。一体どうしたんだろう?
唖然として固まっている。あのディセントラ母上でさえ無言だ。
隣に座るジャスミンとリリアーネ嬢の顔色をうかがうが、彼女たちも固まっていた。
俺は彼女たちの視線の先を見る。そして、目を見開いた。
「……ビュティ!? なんで裸!?」
俺は思わず声を裏返して叫んだ。
召喚したビュティは一糸まとわぬ裸だった。
紫色の髪に紫色の瞳の十代前半の美少女。
眠気と気怠さを放つポワポワとした不思議ちゃんが、つるつるぺったんのロリボディを惜しげもなく披露している。
ビュティが眠そうな瞳でコテンと首をかしげた。
「……丁度着替えているときに召喚された、から?」
あぁー。それは俺が悪いわ。
せめて念話で確認してから召喚するべきだったな。ごめんごめん。
裸のロリがトコトコと歩み寄ってきて、俺の服をクイクイっと引っ張る。
「……シラン、服ちょうだい」
「わ、わかった」
俺は異空間からビュティの下着や洋服を取り出して渡していく。
何故俺がビュティの服を持っているかだって?
……詳しく聞くな。大人の情事……じゃなくて事情だ。
ロリが下着を穿いていく。
「……シラン、ブラのホックを止めて」
「はいはい」
急にポヨンっと胸が胸が大きくなった。
俺はビュティの背後に回ってブラのホックをつけてあげる。
ビュティの種族はスライム。姿かたちは不定形。胸の大きさもスタイルも全て自由自在なのだ。
便利だからということでロリになっているが、偶にボンキュッボンの大人のお姉さんになったりもする。
「……シランめんどい。全部着させて」
「はいはい」
俺はいつも通りにビュティに服を着せていく。
あれっ? 俺はなんでいつもビュティの服を着せているのだろう?
まあ、いっか。気にしないようにしよう。
全部服を着せ終わった。
俺は自分の席に座ると、膝の上にロリのビュティが座ってきた。
ビュティは目の前にあるお菓子を手に取ると、もきゅもきゅと食べ始める。
あぁ! 俺がお皿に取ったお菓子が!?
「えーコホン」
真っ先に我に返ったディセントラ母上が咳払いをした。
それをきっかけに、全員が我に返る。
やべっ。ビュティに服を着せていて、王族のお茶会だったことを忘れてた。
「お見苦しいものをお見せしました。彼女がお化粧品を開発しているビュティです」
「……ぶいっ!」
幼女が小さな手でブイサインをする。
次の瞬間、椅子に座っていたはずのアンドレア母上とエリン母上、アリーネ姉上、エルーザ姉上、エミリー姉上の姿が掻き消えた。
そして、俺の周囲に突如出現する。
一体何が起こった!? 瞬間移動か!? 俺が気づけなかっただと!?
愕然としている俺の膝の上から、ビュティの姿が消え去った。
「「「「「きゃー! 可愛い―!」」」」」
「……おー!」
ビュティが次から次へと女性陣に抱っこされ、頬ずりされている。
ビュティも満更でもなさそうだ。
「ねぇ、シラン! この子ちょうだい!」
「ダメです、アリーネ姉上」
「えぇー。ケチ」
「ケチじゃないです。子供が欲しいなら旦那さんと頑張ってくださいよ」
「うぅー。弟がケチだよー。私も夫も頑張っているんだよ。でも、こればかりは運が必要だから……」
アリーネ姉上が抱っこしたビュティに頬ずりしている。
王女がしてはいけない顔になっている。
姉上。旦那さんに引かれますよ。
「はぁ……アリーネ姉上。精力剤というか、媚薬、欲しいですか?」
「ちょうだい!」
「即答ですか……あげますよ。これもビュティが作ったんです」
ギラギラした瞳で即答したアリーネ姉上に媚薬の入った瓶をプレゼントする。
「うおっしゃー! これってファタール商会でも滅多に出回らない超激レアな媚薬じゃん! ありがとー! 流石私の弟ね!」
アリーネ姉上。キャラが壊れかかってますよ。そんなに欲しかったんですかね?
もうちょっと王女らしくしましょうよ。今日は身内しかいないからいいけどさ。
そして、複数の視線が突き刺さる。
「な、なんですか!?」
女性陣からの無言の圧力。俺は思わず冷や汗をかいた。
「それ」
「ちょうだい」
「今すぐ」
「よこせ」
「は、はいぃっ!」
俺は声を裏返しながら返事。女性陣の圧力に負けてしまった。
アンドレア母上、エリン母上、エルーザ姉上、エミリー姉上に媚薬をプレゼントする。
夫や婚約者に盛るんだろうなぁ。男性の皆さん、頑張ってください。
「言ってくれたら普通にあげますよ。あっ、母上にもあげますね。必要なかったらメイドにでも渡してください」
「あら、ありがとうシラン」
ディセントラ母上にも媚薬の瓶をプレゼントする。
あっ、父上にも渡したから後で母上たちに注意しておかなくちゃ。二粒飲んだら大変なことになる。
媚薬を貰って狂喜乱舞する女性陣から解放されたビュティが、いつの間にか俺の膝の上に戻ってきて、もきゅもきゅとお菓子を食べていた。
じとーッと左右からの視線を感じる。
ジャスミンとリリアーネ嬢だ。何かを期待してじっと見つめてくる。
「流石に二人にはあげないぞ」
「なんでよ!」
「どうしてですか!」
「いや、婚約者もいない未婚の令嬢に渡しちゃダメだろ」
チッ、とジャスミンが舌打ちをし、リリアーネ嬢は残念そうに肩を落とす。
二人に渡したら、大変なことになる気がする。絶対にあげない。
嬉しそうに媚薬を手にした母上や姉上が席に戻ってきた。
「ああ。そう言えば、使用上の注意があるので気をつけてください。男性女性どちらが飲んでもいいんですが、絶対に一日一粒にすること。二粒以上飲んじゃダメです」
「どうしてかしら?」
ディセントラ母上が代表して聞いてきた。
俺はあの日のことを思い出す。
「二粒以上飲んだら快楽なんてありません。苦痛の地獄です。マジで死にます」
「……おー。あれは私も大変だった。命乞いしてもシランは止めてくれなかった」
「元はと言えば、実験のために薬を盛ったビュティが悪いんだろ!」
「……流石に私も反省した。あの時は、女性皆が命乞いしてた。死ぬかと思った」
反省したと言うが、いい結果が得られたと満足げな研究者のビュティさん。
全然懲りてなさそうだ。実際、その後もいろいろと盛られているし。
ふと、冷たい視線を感じた。
顔を上げると、女性陣が全員冷たく蔑んだ瞳をしていた。
「シラン、あんたね……」
「ビュティ様のような少女に手を出すのは、流石にダメだと思います」
左右に座るジャスミンとリリアーネ嬢からも冷たい視線が……。
あっ、えーっと……俺、ロリコン認定されちゃった?
母上や姉上からも冷たい視線が突き刺さる。
俺の膝の上に座るビュティがポムっと手を打った。
「……おー。その時はこっちの姿だった」
ポヨン、と一瞬で大人の美女になるビュティ。
眠そうな雰囲気はあるが、服が弾けそうなほどボンキュッボンの身体。
我儘ボディの超絶な美女になったビュティが俺の膝に出現した。
チッ、と誰かが舌打ちをして、嫉妬の視線がビュティに突き刺さる。
でもすぐに、ポフン、と音を立てて幼女の姿に戻ったビュティ。
怠そうにロリの身体を脱力させる。
「……疲れた。シラン、お菓子」
「はいはい」
俺はお菓子をビュティの口元に持っていく。
もきゅもきゅと食べ始めるビュティ。
その姿に嫉妬の視線は消え去り、ほっこりとした温かい視線が注がれる。
俺に来る視線は冷たいものだけだけど。
咳払いをして話を元に戻す。
「えーコホン。絶対に一日二粒以上飲まないでくださいね。母上たちは特に気をつけて。父上にもその薬を渡してありますので」
相変わらず俺には冷たい視線が注がれるけど、女性陣は頷いて、媚薬のビンをテーブルに置いた。
王族のお茶会はまだまだ続いていく。
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