第30話 化粧品 (改稿済み)

 

 俺のロリコン疑惑が浮上したお茶会。

 俺の膝の上に座るスライムの少女のビュティは、もきゅもきゅとお菓子を食べている。

 さて、そろそろウズウズとしている母上や姉上たちのために話を進めますか。


「ビュティさん? そろそろお化粧の話をしてもらってもよろしいですか?」

「……おー? そうだったそうだった。忘れてた」


 ひょいっと俺の膝から降りると、トコトコとアンドレア母上に近づいていったビュティ。

 小さな手をアンドレア母上に差し出す。


「……んっ!」

「えーっと……どうしたの?」

「……手!」

「て? あぁ! 手ね!」


 アンドレア母上がビュティに手を差し出した。

 その手を握って、ビュティがアンドレア母上の手を表裏よく見つめる。


「……じー。ぺろっ!」

「ひゃっ!」


 ビュティがアンドレア母上の手を突然舐めた。

 そのままペロペロと舐める。

 アンドレア母上はびっくりして固まり、そのまま舐められ続けている。


「……よし。わかった」


 手を離したビュティはどこからともなくメモ帳を取り出すと、ガリガリと何かを書き始めた。

 ここら辺は研究者のように見える。

 いつもボーっとしているから、珍しい光景だ。引きこもりだし。

 ポカーンとしてる母上や姉上たち。

 俺は説明してあげる。


「ビュティはこんな感じで調べるのでびっくりしないでくださいね。スライムですから」

「……もう少し先に言って欲しかったわ。でも、可愛いから許す!」


 アンドレア母上はびっくりしただろうね。

 でも、ビュティの可愛さにノックアウトされたようだ。

 あれ? エリン母上や姉上たちもなんか嬉しそうに待ってない?

 ビュティに舐められたいの?

 俺は家族が可愛い幼女にペロペロされたい変態なのかどうか疑っていると、その間に母上と姉上たちは順番にビュティにペロペロされていった。

 本当に嬉しそうだ。俺は考えを放棄する。

 藪を突いて龍を出したくない。


「……よし。全員分把握した。すぐに作る」

「ビュティ。全員分作るなら、どのくらい時間かかる?」

「……三日」


 三日か。それまで母上と姉上たちは我慢できるか?

 あっ、我慢できそうにないですね。

 俺の膝の上に戻ってきたビュティが俺の服を引っ張る。


「……シラン、あれ出して。非売品の。アレルギーもなさそうだから使って大丈夫」

「ディセントラ母上のメイドにサンプルとして提供してる超高級品? あっ……」


 おっと。女性陣の瞳がギロリと俺を睨んでいる。

 あるなら早くちょうだい、という無言の圧力が襲う。

 俺はおずおずと超高級品のお化粧品を取り出すと、母上と姉上たちに献上する。


「……お受け取り下さい」


 シュパッと俺の手の上から消えて、いつの間にか母上と姉上たちの手にわたっているお化粧品。

 女性の皆さんが嬉しそうに微笑んでいる。


「えーっと、化粧水は寝る前と、朝起きて顔を洗った後につけると良いそうです。ボディーソープ、シャンプー、リンス、トリートメントもあります」

「たったそれだけでいいの?」

「いいんですよ、エリン母上。一応、三日で出来るそうなので、それまで使ってみてください。ビュティの化粧品は凄いですから。専用となるともっと驚きますから。ディセントラ母上は必要ないですね。足りなくなったら教えてくださいね」

「わかったわ」


 よし。ひとまず今日の目的は終わった。

 後はお茶とお菓子を楽しむか。

 安心したところ、クイクイっと服が引っ張られた。

 振り向くと、ムッとしたジャスミンが俺の服を引っ張っていた。


「どうしたんだ、ジャスミン?」

「今の、私にもちょうだい」

「えっ?」

「シラン様。出来れば私にも……」

「リリアーネ嬢まで?」


 リリアーネ嬢も恥ずかしそうに俺の服をクイクイっと引っ張っていた。


「いやいや! 二人には必要ないから!」

「なんでよ! 私は綺麗になっちゃいけないの!?」


 ぷくーっと頬は膨らみ、瞳を潤ませて拗ねているジャスミン。

 リリアーネ嬢も似たような表情で、ジャスミンの言葉に頷いている。

 ……二人が可愛い。

 おっと。二人を愛でている場合じゃないな。


「ちょっと待て二人とも! 二人が使っているのは特注で作らせた専用品だからな! ジャスミンには昔から渡してるだろ! リリアーネ嬢にも数日前に渡したはずだ!」

「えっ? そうなの?」

「そうなのですか? 確かに数日前に貰いましたけど」

「それ、今母上と姉上たちに渡した物より性能上だから」


 聞いたら卒倒しちゃうような材料を使ってるから。

 不死鳥とか世界樹とか、伝説上の存在のアイテムをふんだんに……。


「シランは昔からさりげなくこういうことをするのよねぇ。旅行に行ったらお土産は欠かさないし、誕生日プレゼントも毎年くれるし、似合いそうだからと言ってアクセサリーはプレゼントしてくれるし」


 や、止めてくれ~ディセントラ母上~!

 俺のイメージが……俺のイメージが崩れちゃうから~!

 皆、そう言えばそうだ、という表情で、温かいまなざしをしないでくれ!

 超絶恥ずかしいからぁ~!

 真っ赤になって恥ずかしがる俺を一目見て、ディセントラ母上は何故か嬉しそうにしているジャスミンとリリアーネ嬢に話しかけた。


「ジャスミンさん、リリアーネさん。二人ともシランを逃がしちゃダメよ。丁度良くフリーになったばかりだから! 逃したら勿体ないわ!」

「母上!」

「あら、いいじゃない。ユリウスもノリノリでしょ?」

「さっき父上には復讐してきました。俺は夜遊び王子なんですから、彼女たちの評判を落とすだけですよ」

「そうだわ! 十日後にお城で舞踏会があるの! 二人ともシランのパートナーとして出席しない?」


 ディセントラ母上! 話を聞いて! 息子の話をお願いだから聞いて!

 言葉のキャッチボールをしましょうよ!


「でも、私は近衛騎士の仕事が……」

「私なんかではシラン様に釣り合わないかと……」


 そうそう。二人とも断って……。


「あら、じゃあ王妃として命令します。シランのパートナーとなって舞踏会に参加しなさい」


 ははうえ~! 何してくれちゃってんの~!

 こういう時に滅多に使わない王妃の強権を発動させないで~!

 というか、俺は強制的に出席なの!?


「そういうことなら……」

「王妃様のご命令なら……」


 なんでジャスミンもリリアーネ嬢も満更でもなさそうにしているの~!

 俺が反対しようとしたとき、膝の上に座るビュティがポンポンと叩いてきた。


「……シラン、人生諦めが肝心」


 そうか。じゃあ、諦めるか……ってならないからな!

 徹底的に抵抗してやる!

 俺は舞踏会なんか行きたくない!

 あのドロドロとした貴族との裏のやり取りなんかしたくない!

 俺は行かないからな!


「シラン。命令」

「了解です母上!」


 俺は即答した。

 やっぱり母上には逆らえないよね。

 こうして、俺は強制的に舞踏会に参加することになった。

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