第二章 舞い踊る美姫 編

第22話 お説教 (改稿済み)

 

 全てが終わり、ヴェリタス公爵領の娼館でゆっくりと休んだ。

 ソラやファナをはじめとする俺の使い魔と、ファナの配下である娼館の支配人にたっぷりとサービスして癒されてもらいました。

 あんなことやこんなことが素晴らしかったです。

 いつの間にか、ビュティが開発した媚薬も盛られており、忘れられない時間を過ごさせていただきましたよ。

 現在、俺は馬車の中で、艶々した肌のソラに膝枕してもらっている。ソラの太ももは膝枕にちょうどいい。柔らかくてしっとりスベスベして甘い香りがする。


『みんなだけずるーい! 卑怯!』

『除け者にするなんて最低!』


 馬車を引いている一角獣ユニコーンのピュアと二角獣バイコーンのインピュアが、さっきからブツブツと文句を言っている。

 インピュアなんか、とても冷たい声だ。心が折れそう。


「いや、だってさ。二人が動けなかったら帰れないじゃん! 転移して帰ったほうが良かったか?」

『そ、それはダメなんだからね!』

『私たちの仕事を奪うな―!』

「だから二人は呼ばなかったんだよ。それに、わかってたから二人も出てこなかったんだろ?」

『それはそうだけどー』

『除け者なんて気に入らないわ!』


 除け者ってわけじゃないんだけど……。


「帰ったら二人だけにご褒美あげるから」

『じゃあ、許すー!』

『私もそれで許してあげるわ! べ、別にご褒美に釣られたとか、そんなんじゃないんだからね! 違うんだからね!』

『インピュアはツンデレー』

『うっさい!』


 ピュアとインピュアが姉妹喧嘩を始める。よく見る光景だ。

 ちなみに、インピュアはツンデレデレだ。ツンがあるけど、二人きりになったらデレデレになっちゃうのだ。デレじゃなくて、デレデレでデレッデレの可愛い子なのだ。

 言ったら怒られるから言わないけど。

 ピュアとインピュアの喧嘩を聞きながら、ゆっくりのんびりと過ごす。

 外は景色が歪むほど猛スピードで移動している。

 あっという間にヴェリタス公爵領から王都へと帰ってきた。

 王都にある王家が所有する別邸。俺が普段住んでいる屋敷に着いた。

 任務中は何度も転移で戻ってきたから、久々の感じはないけれど、やっぱり帰ってきたという実感が湧いてくる。

 使い魔たちに出迎えられ、自分の部屋に戻り、ぐてーっとソファに背を預けてだらける。


「俺がいない間にないかあったか?」


 甲斐甲斐しくお世話をする使い魔たちに問いかけた。


「そうですね。毎日ジャスミン様がいらしていましたよ」

「あぁ~ジャスミンね。心配かけたなぁ。黙って出かけたから怒ってるだろうなぁ。うわぁー怒られたくない~。でも、今回は大人しく怒られようかなぁ」


 嫌だなぁ、とげんなりしていると、背後から昔から聞きなれた女性の声が聞こえてきた。


「じゃあ、今回大人しく怒られましょうか、シラン・ドラゴニア第三王子殿下」


 背筋がゾクッとした。思わず背筋をピーンと伸ばす。そして、錆びついた人形のように、ギギギッと背後を振り返る。

 そこには、美しい笑顔を浮かべた近衛騎士団の鎧をつけた美女が立っていた。

 冷や汗がドバドバと流れ出す。服が濡れて気持ち悪い。


「ジャ、ジャスミン? いつからそこに?」

「少し前からずっといましたよ、シラン王子殿下。毎日毎日王子殿下がおかえりになるのを心よりお待ちしておりました」


 ニコッと微笑むジャスミン。ゾワリと鳥肌が立つ。

 き、気持ち悪い。ジャスミンの敬語が気持ち悪い!

 ヤ、ヤバい。幼馴染のジャスミンが激怒している。

 昔から調教……じゃなくて躾……でもなく、怒られ慣れている俺は、即座に床に正座をする。動物的本能と言ってもいい。

 正座に慣れている王子。なんかみじめだ。


「さて、自由奔放な王子殿下? 何か言いたいことは?」


 腕を組んだジャスミンが俺の目の前に仁王立ちする。


「え、えっと……傷心旅行に行って参りました……。婚約が破談になったので」

「……どこに?」

「ヴェ、ヴェリタス公爵領です!」

「ふぅ~ん? そういえば、一週間ほど前にヴェリタス公爵領で大変な事件があったんだけど?」

「し、知ってるぞ。騒ぎになったから……」

「ふぅ~ん? ヴェリタス公爵家のご息女は可愛かった?」

「可愛かった! いや、可愛いというよりは綺麗というか……大人っぽい女性だったな」

「そう。よかったわね」

「ヒィッ!?」


 ジャスミンがより一層ニコッと笑ったけど、その笑顔が逆に恐ろしい!

 俺の本能が警告を発している。恐怖で身体がガクブルと震える。


「い、いや! その、美女のジャスミンとはまた雰囲気が違って……!」


俺の言葉を聞いたジャスミンは、雷が落ちたかのようにピシッと固まった。


「……ねえ?」

「は、はいぃっ! 何でございましょうかぁっ!?」

「……シランは私のことを美女だと思っているの? 可愛いと思ってる?」


 真剣な口調で、聞きたくないけど聞きたい、と不安そうな表情のジャスミンが静かに問いかけた。

 ジャスミンは何を言っているのだろうか?


「当たり前だろう? ジャスミンは美女だ。短いけど綺麗な金髪だし、瞳も綺麗な紫色だし、スラッとしてスタイルも抜群だろ? ジャスミンは綺麗で可愛いさ。美女だと断言する!」


 ジャスミンはカァっと真っ赤になる。

 パタパタと顔を扇ぐ彼女はなんか可愛い。


「も、もう! シランったら! 突然何を言い出すのよ! このばかぁ!」


 くねくねと身体をくねらせ、照れるジャスミンさん。デレたな。

 彼女はソファに長い足を組んで座る。一つ一つの動作が洗練されて美しい。

 身体を前のめり。細い指で俺の頭のつむじをイジイジ。


「わ、私が綺麗で可愛いなんて……! もう! いつもそんなことを思ってたの!? シランのバカ! 変態! 女誑しの色欲魔! この正直者ぉっ!」


 可愛らしくデコピン。さほど痛くはない。

 罵倒の言葉は必要ないかなぁ。照れ隠しだとわかっているから嫌な気分にはならないが。


「お仕置きとご褒美を同時にあげるわ!」


 一体どういう意味だろう?

 首をかしげる俺の前でジャスミンはブーツを脱ぎ始めた。靴下も脱いでつま先まで綺麗な生足をご披露。


「土下座しなさい」

「はい!」


 幼馴染に逆らえない俺は即座に土下座。そして、後頭部に何かが置かれる。

 この感じ……ジャスミンの足か!?


「こ、こういうのが男性は喜ぶんでしょう?」


 喜ぶのは一部の男性だけですよ、ジャスミンさん。

 どこからこういう知識を知ったんだ!? 詳しくお聞きしたい。

 足の親指でツンツンされる俺の頭。優しく脚の裏で撫でられる髪。

 こ、これは新たな扉が開いてしまう!?


「たぁ~っぷりと反省しなさい! そしたらもっとご褒美をあげるわよ?」

「申し訳ございませんでしたー!」


 あぁ……痺れた脚が痛い。踏まれた後頭部が気持ちよ……ゲフンゲフン!

 俺は心の底から反省するのだった。


















<おまけ>



「さあ、ご褒美よ。わ、私の足を、な、舐めさせてあげる!」


 目の前に差し出されるジャスミンの生足。

 えーっと、俺はどうすればいい?

 取り敢えず、くすぐってやろうかなぁ、と思って彼女の足に手を伸ばした途端、足が引っ込んでしまった。


「やっぱりダメー!」


 顔が真っ赤なジャスミンが立ち上がる。


「せ、せめてシャワーを浴びさせて! 隅々まで綺麗にしてくるからぁー!」


 そう叫んで部屋を飛び出していくジャスミン。

 俺は一人正座のまま部屋に取り残された。

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