第14話 腐敗した貴族 (改稿済み)
趣味の悪い石像や絵画が並ぶ廊下を歩いて行く。ほとんどが裸の女性だ。
―――気持ちはわからなくもないが、やっぱり本物のほうがいいでしょ!
前に調査したときはこんな物は置いていなかったはずだ。置かれたのは最近のことに違いない。
ここは、ルーザー男爵家の屋敷である。俺は一人で潜入中。
隠密状態で屋敷の中を誰にも気づかれることなく、メイドや執事の横を堂々と歩いて探っていく。
誰もが暗い顔でビクビクと怯え、人数も減っているようだ。特にメイドは生気のない顔をしている者も多い。
もしかしたら、どっかの豚に襲われているのかもしれない。
早く潰しておけばよかった。
後悔しながらも屋敷の中を調査する。
俺は部屋のドアを通り抜けた。ドアを開けたわけではない。通り抜けたのだ。
使い魔の何人かは実体を持たない霊体系なので、その力を使って俺の身体も霊体化させたのだ。
俺の特殊性もあるけど、使い魔の力を使えるって便利!
霊体化の弱点として、壁や人間だけじゃなく、ネズミや黒光りするヤツやシロアリも通り抜けてしまうことかな。
屋根裏とかシロアリが巣をつくった壁の中とか通った時は……思い出したくもない。
さてさて、何か証拠はあるかなぁ~?
俺は人の目を気にすることなく物色していく。ここはルーザー男爵の執務室。
これは……財務関連の書類か。
ふむふむ。うわっ。借金まみれじゃん! 借金の催促の手紙も多い。
誰に借りてるのかな……ふむ、闇ギルドだな。
闇ギルドの名前は……おっと。俺たちのところか。暗部の下部組織の闇ギルドから借金しているらしい。
借金も取り立てないといけないな。
貴族の屋敷には執務室や寝室に隠し部屋があることが多いから、確かこの屋敷は本棚の裏側も確認してっと。
うっはぁ~! ここ最近の悪事がボロボロ出てくる。男爵も昔はまともだったのに。
俺たちが把握していないつい最近はものすっごいことやってるなぁ。
主に息子の悪事のもみ消しみたいだけど。
「おっ? 奴隷に関する書類を発見。この国では奴隷は禁止されているのに。即処刑ものだぞ」
奴隷に関する資料を先に回収します。
この書類は、隣のヴァルヴォッセ帝国からのものらしい。
今回の背後にいるのは帝国かもしれないな。
いや、まだ結論付けるのには早い。慎重に調べていかなければ。
証拠は確かに頂きましたっと。
俺はいろいろと物色し、また別の部屋に移動する。
霊体となって扉や壁を通り抜けると、一人のメイドが泣いており、それを慰めるメイドがいた。
「うぐっ……うぐっ……いやぁ……」
「そうね。今すぐ辞めたいわよね」
「で、でも! そしたら家族にまで……妹が! 妹が狙われるんです! ウチには引っ越すお金もないし……」
泣き叫ぶメイドをもう一人のメイドが抱き締める。
二人とも絶望し、虚ろな表情をしている。
「私……明日の夜……ドッグ様に呼ばれているんです……」
「あなた……初めてよね?」
「………はい。あはは……先輩、天井のシミを数えていたら終わりますか……?」
涙を流しながら先輩のメイドに問いかける。
先輩のメイドは悲しげに首を横に振った。
そして、先輩のメイドは覚悟を決めた表情になる。
「今すぐ逃げなさい。私が相手をするわ」
「ですが先輩! そうしたら先輩が!」
「いいのよ。私はもう穢れているわ。新入りのあなたまで穢させはしない!」
「でもでも! 機嫌が悪くなったら地下牢に……。あそこは……」
「覚悟の上よ」
泣き顔で止めるメイドと、それを見てますます覚悟を決める先輩メイド。
そこまで男爵家は腐っていたか。
ちっ……俺の馬鹿! もっと早く潰しておけば……。
暗部になってから何度目かわからない後悔をしてしまう。
深く深呼吸し、魔法を使って後悔を吹き飛ばす。そうでもしないと心が壊れてしまいそうだ。
俺はその部屋から離れ、廊下で立ち止まる。
「地下牢か……」
霊体となって床をすり抜ける。そして、地下牢に音も気配もなく降り立った。
そこは目を逸らしたい光景が広がっていた。
血だらけで倒れる女性や、鎖で繋がれた少女。殴打の跡がある少女や女性たち。
すすり泣く声や辛うじて息をする音があちらこちらから聞こえてくる。
前調査したときにはこんな光景はなかったのに……。
ちっ! 胸糞悪い!
「あ゛……う゛っ……」
血だらけの女性が呻き声をあげた。
ゴホッゴホッと咳き込み、血が吐き出される。
叫びすぎて声が枯れている絶叫が聞こえてくる。
現在進行形で拷問道具によって拷問されている人もいるようだ。
俺は地下牢に結界を張ると、姿を現した。そして、拷問されていた人を次々に助け出していく。
取り敢えず床に横たえ、地下牢全体に回復魔法を発動させた。
ついでに浄化の魔法もかけていく。
「あ、あなたは……?」
近くにいた女性が意識を取り戻したようだ。
黒いローブを羽織り、顔を仮面で隠した俺に恐怖を浮かべている。
『……暗部だ』
「あ、暗部!?」
息を飲んだ女性はゲホゲホと咳き込み始める。
暗部は国王直属の部隊とは言え、王国の中では恐怖の対象だ。
この女性の恐怖は普通だ。気絶しないだけマシ。
『すまない。遅くなった』
俺は全員に毛布をかけ、少しの飲み物と食べ物を置いて行く。
意識を取り戻したのはさっきの女性一人だけのようだ。
恐怖で震える女性に話しかける。
『この地下牢には結界を張った。我らの仲間以外誰も通さん。すまないがもう少しだけ我慢していてくれ。我らが全て終わらせる。全員助け出す』
怯えながらも小さく頷いた女性は、気が緩んだようだ。スゥっと気を失った。
俺は彼女に毛布をかけ、覚悟を決める。絶対に許さない。
丁度その時、リリアーネ・ヴェリタス嬢を護衛していた
『ごしゅじんさまー! この子に魔道具をプレゼントしたー?』
『は? そんなことしてないが』
『ご主人様からって何か送られてきたんだけどー。ちなみに私はリリアーネのおっぱいの間にいます。思ったより大きいねぇ~。どやぁ!』
『なんて羨ましいことを……! ゴホンゴホン。俺は何も贈っていない、ということは……緋彩! その魔道具をリリアーネ嬢に触れさせるな!』
一足遅かったようだ。緋彩から最悪の報告が来る。
『もう遅ーい! どっかに転移しちゃった!』
『ちっ! 場所はどこだ!?』
『知らなーい! あの豚がいるよー』
『ホテルか!? 部隊は送っていない! ハイド! 転移は!?』
『申し訳ございません。結界を張られたようです』
監視をしていたハイドから報告が来る。
これなら影への転移も封じられたか。
最悪だ。こんなにすぐに行動を起こすとは思わなかった。
『あっ、いつの間にかリリアーネに吹き矢が撃ち込まれてる! ふむふむ。軽い麻痺毒と媚薬ね。あれっ? ちょっと危ないかも。痙攣してるし、喉を掻きむしってるし、口から泡吹いてる』
『緋彩! 今すぐ結界の核をぶち壊せ! 見つからないなら結界ごとぶっ壊せ!』
『あいあいさー!』
緋彩の返事を聞く前に、別の人物に念話を繋げる。
『ファナ! 今すぐ部隊を突入させろ! 豚が動いた! 俺はリリアーネ嬢を助けに行く! 特に地下牢にいる女性たちを頼む!』
『わかったわ』
これでここは大丈夫だ。
時間は夜じゃないけど仕方がない。同時に動かないと魔道具かなにかで連絡される可能性がある。
命が優先だ。
即座に緋彩から念話が来る。
『結界壊したよー』
『よくやった! すぐに行く!』
俺はハイドの能力を使って、発生させた影の中に飛び込んだ。
全てが闇に包まれた。
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