第13話 サービス (改稿済み)

 

 ヴェリタス公爵家の屋敷を後にした俺たち。背後にいるハイドに向かって話しかけた。


「ハイド。影の登録はできたか?」

「はい。もちろんでございます。リリアーネ嬢とドッグ・ルーザーの二人とも転移可能です」

「よくやった」

「ありがとうございます」


 ハイドの能力である影の転移は、人物の影の登録をしておかないと移動することができない。

 今回の訪問は影の転移登録を目的としていたのだ。

 ドッグ・ルーザーがいたのは予想外の嬉しい出来事。これでいつでも転移できる。

 さてと、いろいろと証拠集めもしなくちゃいけないけど、もう一つ予防策をしておこう。


緋彩ヒイロ。リリアーネ嬢を護衛してくれ」

『りょうかーい!』


 俺の身体から赤い小鳥が飛び出してくる。俺の使い魔で不死鳥の緋彩。

 俺の肩にとまって頬ずりしてから、パタパタとヴェリタス公爵の屋敷に向かって飛んでいった。

 リリアーネ嬢をこっそりと護衛してくれるだろう。


「さてと、お仕事をしますか」


 取り敢えず、暗部の本拠地である娼館に戻る。

 しかし、何やら娼館が騒がしい。冒険者でも暴れているのか?

 馬車が停まっている娼館の入り口。

 見たことのある騎士がいる。そして、中から聞き覚えのある声が聞こえる。


「むふー! 女をよこせ! 全員だ! ボクの相手をするでふ!」


 この声は豚……じゃなかった、ドッグ・ルーザーだな。

 ヴェリタス公爵の屋敷から逃げたと思ったら、女を求めて娼館に立ち寄ったらしい。

 娼館の中を暴れて、物を壊し、喚き散らしている。


「何をしているのかな?」

「何だ貴様は……ひぃっ!?」


 怒り狂って振り向いたドッグが、俺を見て真っ青になって悲鳴を上げた。

 後ろにハイドがいるから余計に恐怖しているようだ。

 首に手をやってガタガタと震えている。首の怪我は魔法で治したようだ。


「もう一度聞く。何をしているのかな?」

「ぶひぃ~~~~~~~~~~~~!?」


 豚……じゃなくて、ドッグ・ルーザーがドタバタと外へと逃げていった。

 従者も慌てて主について行く。

 壊した物の弁償もせずに一目散に逃げだしたドッグは、馬車に乗ってどこかへと消えていった。

 はぁ、滅茶苦茶になった店内はどうするんだ?


「殿下、ありがとうございます」


 娼館の支配人の女性がお礼を言ってくれる。

 真面目そうな雰囲気だが、圧倒的な美貌を持つこの娼館の支配人。

 彼女目当てで訪れる客も多いらしい。でも、一切お客は取らないという美女。

 この女性は裏組織を取り仕切る吸血鬼のファナの有能な部下だ。

 娼館で働く華やかな衣装を着た美しい女性たちもお礼を言ってくれた。

 俺は何もない空間から革袋を取り出す。そして、支配人の女性に手渡した。


「修繕費はこれを使ってくれ」

「いえっ! ですが! これは多すぎます!」

「気にするな。余ったら働いている者たちにボーナスでも与えてやれ」


 この娼館を丸々建て直すことができるくらいの金額だ。支配人に無理やり押し付ける。

 使い魔のファナが経営するファタール商会の売り上げが凄すぎて、裏の創設者である俺の懐にガッポガッポお金が入ってくる。他の使い魔もいろいろとやってるので、その分のお金も入ってくる。

 俺は大金持ちである。

 しかし、たくさん使わないと経済が回らない。父上からたくさん使えって言われてる。


「ありがとうございます」


 支配人は何とか受け取ってくれた。

 娼館で働く女性たちに喜色が浮かぶ。やっぱりボーナスって嬉しいよね。

 頑張って男を落として情報を手に入れてください。お願いします。

 すると、真面目そうな支配人がスッと俺の腕を抱きしめ、大きな胸で挟み込んだ。

 胸の柔らかさが素晴らしい!


「殿下、お礼として、当店からも私からも、たっぷりとサービスさせていただきますね♡」


 ほうほう。楽しみにしようかな。どんなサービスをしてくれるのかなぁ。

 娼館の中が騒めき始める。女性たちが目を見開いて驚いていた。


「支配人がサービス!?」

「あの支配人が!? どれだけお金を積まれても男性客を取らない支配人が!?」

「処女って言われる支配人が!? あり得ない!」

「夢よ! これは夢だわ!」


 女性たちがコソコソと話し合っている。

 全部聞こえているけど。これはわざとか?


「あなたたち! いい加減にしなさい!」


 叱りつける支配人。でも、俺の腕を離さない。

 キャーっと楽しそうに店の奥に散っていく女性たち。

 普段から支配人を揶揄って遊んでいるんだろうなぁ。双方とも慣れた様子で楽しそうだし。

 ふむ、仲が良くてよろしい。


「すみません殿下。さあ、奥へどうぞ」


 案内された先は、極わずかしか知らない秘密部屋。俺のような暗部の者が使う秘密の仕事部屋だ。

 ハイドとソラを連れて部屋の中に入った。

 入った瞬間、真面目そうな支配人の顔が冷酷な顔つきになった。

 彼女は吸血鬼であるファナの血を流し込まれた《半吸血鬼ダンピール》。


「殿下、まずはご報告です。リリアーネ・ヴェリタス嬢を狙う賊は、どうやら並みの者ではないようです。一切の痕跡がありません」

「冒険者崩れだと報告があったが、なるほど、元高ランクの冒険者……または、それを装った他国の者か」

「その可能性が高いかと」


 面倒なことになったな。国を内側から壊す……歴史的にもよくあることだ。

 まあ、頭金を貰ってとんずらした可能性もゼロではないけど。

 貴族たちを調べ直さないと。もしかしたら、もしかするかもしれない。

 ルーザー男爵家をまず最初に調べ直すか。


「ハイド、あの豚は今どこにいる?」

「少し離れた高級宿のほうに泊まっているみたいです。部屋の中にいますね」

「すぐには行動しないと思うけど見張っておけ」

「かしこまりました」


 他にしないといけないことは……。

 そういえば、ルーザー男爵家の包囲網はどうなっているのだろうか?


『ファナ、ルーザー男爵家への部隊の配置はどうなっている?』


 俺はファナに念話を送る。即座に反応が返ってきた。


『いつでも捕らえることはできるわ。ただ、息子は出かけていていないらしいけど』

『それは大丈夫だ。こっちにいる』

『そう。応援を送るわ』

『わかった。作戦は日が落ちて暗くなったら決行する。だが、今回の賊は超級の腕前の可能性がある。総員に伝えておけ』

『了解。警戒を上げてるわ』

『それと、作戦の前に一度俺がルーザー男爵家へ潜入する。他国の干渉の可能性があるみたいだ。証拠があるかどうか探ってみる』

『わかったわ。気をつけてね』


 そう言って念話が切れる。

 というわけで、俺は今からルーザー男爵家へ潜入するとしますか。

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