第4話 癒しのモフモフ (改稿済み)
俺は王城の自分の部屋のソファに寝転がっていた。
両手のモコモコとしたぬいぐるみを撫で、首筋や顔にもモコモコのぬいぐるみがすり寄ってくる。
フワフワでモフモフの毛が気持ちいい。癒される。
そして、もっちりふわふわすべすべで、あまい香りがする枕。
実に最高だ。天国はここにあった。
「ちょっとシラン! ソラの膝で寝てないで、いい加減に説明しなさいよ!」
近衛騎士の鎧を着たジャスミンがソファに座って優雅に紅茶を飲んでいる。
紫色の瞳には怒りの炎が燃えているけど。
「ジャスミン……俺は精神的苦痛を受けて神経が衰弱しているんだ」
「何があったの? ただ報告に行っただけよね?」
「…………中年のおっさんのブツを目の前でぷら~んぷら~んされたんだ。それも三人分。ソラや皆に癒されないと俺は死ぬ! 目が腐って死んじゃうから!」
「そ、そうなの。なら仕方ないわね」
あっさりと引き下がるジャスミン。
三人の男のブツを想像してしまったのか顔を青くしている。俺の気持ちがわかっただろう?
膝枕してくれているソラは微笑みながら頭を撫でてくれる。
実に癒される。ソラ、ありがとう。
「うふふ。ご主人様。たっぷりと癒されてくださいね」
女神だ。ここに女神がいる。ソラは俺の女神様だ。たくさん甘えよう。
モフモフのぬいぐるみ……ではなく、俺の使い魔である幻獣たちがすり寄ってくる。
太陽のような黄金の体毛と皆既日蝕のような漆黒の瞳の子狼
『ご主人様』
『主様よ』
ペロペロと顔を舐めたり、頬にモフモフの身体や顔をスリスリしてくる。
とても可愛い。
『…………ぐぅ』
『すぴーすぴー』
赤黒い瞳を持ち白銀の体毛の子狼
俺が手で撫でても起きない。存分にモフらせてもらおう。
「休みながらでいいから、何があったのか教えなさい。何故いつも王都の屋敷に住んでいるシランが国王陛下の下へ報告に来たのか」
「はいはい。言える範囲でな。まず最初に、俺の婚約者を覚えているか?」
「リデル・フィニウムね。金髪ドリルの高飛車クソ女」
ブワァッとジャスミンの身体から怒気と殺気が放たれ、俺の部屋を満たしていく。
傍に控える王城のメイドたちが顔を真っ青にした。
ジャスミンのお説教にはなれている俺でも冷や汗が流れ落ちるほどの威圧だ。恐ろしい。
「そうそう。そのリデル嬢に婚約破棄された」
「なるほどねぇ。婚約破棄されたのね………………って婚約破棄!? 何やってるのあんたは!?」
「ちょい待ち! 破棄したんじゃなくて、破棄されたの! 俺じゃなくてリデル嬢から!」
「わかってるわよ! 貴族の娘風情が王族との婚約を勝手に破棄ですって!? 大問題じゃない!?」
そうなんだよな。大問題なんだよな。
なのに、リデル嬢や取り巻き立ちは全然わかっていなさそうだった。
あの選民思想も大丈夫か? 不安だ。
「どうせ伝わるし、全部言うか。リデル嬢には他の男がいたんだ。ダンデサカム・ダリア殿がな」
「はぁ!? 団長の次男よね!? 馬鹿なの!? 阿呆なの!?」
「いや、俺に言われても」
ジャスミンは勝手に激高しているけど、俺にとってはどうでもいいことだ。
あぁ……ソラにスコル、ハティ、神楽に緋彩に癒される。モフモフだぁ。
モフモフパラダイス、最高でぇす!
「ねえ? 処刑よね? バカ女も団長の息子も拷問されて処刑よね? そうしないと私の気が治まらないんだけど!」
「いやいや。フィニウム侯爵家に罰則とダンデサカム殿がダリア家から追放されるだけだよ。いちいち処刑って面倒くさいし。あれっていろいろ書類書かないといけないんだぞ」
「書きなさいよ! 書類の一枚や百枚!」
「百枚は流石に勘弁してほしい……」
俺はぐーたらしていたいんだ! 書類仕事なんてやりたくない!
俺の頭を撫でていたソラが、空色の瞳を冷たく輝かせ、圧倒的な覇気と殺気を纏う。
近衛騎士団のジャスミンでさえ崩れ落ち、息ができなくなる。
「うふふ。ご主人様ご命令ください。あのようなゴミ、細胞の一つ残らず消滅させてあげましょう。前から思っていたのです。あのゴミはご主人様の傍にいる価値はないと」
ソラが本気で怒っている。本気になったソラは一日で大陸を滅ぼせるからな。止めないと厄災をもたらしてしまう。
それに、スコルと神楽も尋常じゃない殺気を放っている。
ハティと緋彩はぐーすか寝ているけど。この殺気の中で寝るとか大物だな。
部屋のメイドもバッタバッタと倒れていくし、ジャスミンも呼吸ができなくて苦しそうだし、そろそろソラたちを止めるか。
「ソラ、スコル、神楽、命令だ。俺をナデナデして甘やかして可愛がって癒すんだ。俺はとても疲れている。俺をたっぷりと癒してくれ」
「かしこまりました」
『わかりましたご主人様』
『こここ……主様は甘えん坊だのう』
愛おしそうに頭を撫でてくれるソラと、スリスリしてくれるスコルと神楽。
圧倒的な覇気や殺気を霧散させ、今度はピンク色の愛のラブラブオーラを纏っている気がする。
流石愛しの使い魔たちだ。可愛いなぁ。
崩れ落ちたジャスミンが、顔を真っ青にして震えながらやっとこさソファに戻った。恐怖で歯がガチガチと鳴っている。
「そうだった。ソラもシランの使い魔だった」
「そうだぞ。ソラもスコルもハティも神楽も緋彩も俺の愛しい子だよ」
「まぁ! 愛しいだなんて! 私もご主人様のことをお慕いしておりますよ。愛してます」
ニコッと美しく笑いかけてくれるソラに見惚れた。
私も、妾も、とすり寄ってくるモフモフの子狼と子狐も可愛い。
モフモフで癒されるなぁ。
「……あんたねぇ!」
「んっ? まだ恐怖が抜けないのか? ハティと緋彩だったら貸すぞ」
寝ている二匹を起こさないように魔法で浮かせ、顔を真っ赤にしてプルプルと震えているジャスミンの膝の上に乗せる。
ジャスミンはちょっと二匹を撫でて、顔をパァッと輝かせる。
うんうん、わかるよ。モフモフは正義だ。じゃすてぃす!
「はぁ。ご主人様はジャスミン様の気持ちを理解していながら……」
「ソ~ラ? 聞こえてるぞ~」
「ご主人様に聞こえるように言いました」
わざと言ったらしい。
まあ、ジャスミンが恐怖じゃなくて怒りで震えていたことは理解しているし、怒りの理由もわかっているけどさ。
「はぁ……もういろいろとどうでもよくなったわ」
ジャスミンが寝ているハティと緋彩をモフモフして癒されている。
珍しく顔が普通の少女のように蕩けている。
モフモフは世界を救うのだ!
「どうせ国王陛下や宰相がいろいろと考えているんでしょ? あんた丸投げしそうだし」
それは違う! 父上や宰相が勝手に悪巧みを始めたんだ! 俺は一切関係ないぞ!
丸投げしたのは事実だが。
「婚約も破棄させようといろいろ考えていたんでしょ? んで、喜んで今回の話に乗ったと」
ヤバい。全てバレてる。幼馴染に全て見抜かれてる。
「目を逸らしても無駄よ。態度でバレバレだわ。シランは王族なんだから、結婚しないといろいろと不味い立場なのに……」
「父上にも宰相にも言われたよ。血を残す義務があるって。そう言えば、ジャスミンとの婚約を薦めてきたな」
「わ、私!? そ、そんな……!? で、でも、どうしてもって言うなら……」
ジャスミンが頬をめてチラチラと視線を向けてくる。
こんな反応をする理由は知っているけど、あえて気づかないふりをしてぶった切るのがこの俺、シラン・ドラゴニアだ。
「即座に断っておいたから安心して!」
「は?」
「その後はリリアーネ・ヴェリタス嬢との婚約も薦められたなぁ。あの『
ジャスミンの身体の周囲を怒気が纏わりついて、陽炎のように揺らいでいる。
眠っているハティと緋彩を優しく抱きかかえて俺に近づき、長い脚を大きく振り上げる。
そして、騎士の硬いブーツを履いたまま、勢いよく俺のお腹に踵落としを放った。
「死ね!」
「ぐぎぇっ!」
俺は蹴られたお腹を押さえて悶絶する。
痛い。けれど、なんという絶妙な力加減! 身体にはケガさせないように加減しつつ、最大限の痛みを出せるように調節されている。
あっ、待って! 新たな扉が開いちゃうからぁ~!
ジャスミンは怒りが収まらないのか、ガシガシと踏みつけてくる。
俺、一応王族なんだけど。
「この! 鈍感! 変態! 色欲魔! 娼館通いの役立たずの女誑しの鈍感変態バカ王子! あんたなんか死んじゃえ!」
「誰かジャスミンを止めてくれぇぇぇえええええええええええ!」
誰もが、自業自得、という顔つきで、ジャスミンを止める者はいなかった。
俺って王族なのに。王子なのに。ぐすん。
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