婚約者

 それからというもの、暇な時は庭に出るようになった。


 ましては、この世界にゲームなんてあるわけもなく、部屋にある本を端から読んだが、ゲームばっかりしていた私には苦痛でしかなかった。だから、私は庭で昼寝をする。

 前世から寝ることは得意だったし、夢の中はなんでも出来るから、前世のゲームを想像しながら夢の中でやっていた。この時が1番幸せなのだ。



 転生してから、数年経ったが、特に変わったこともなかった。


 私の体も成長して、体つきも随分大人に近ずいてきた。


 いつも通りに庭に出ようと思って、羽織るものを持って、部屋を出る。


 数年前に見つけた、あのドアはあまり使うことがなくなった。玄関から出ても庭に行けるし、そっちの方が断然近いから、2年ほど前からあのドアは使わなくなった。


 玄関で靴を履いて、いつもの場所へと向かう。


 庭に咲いてる薔薇は真っ赤で綺麗だった。

 噴水の近くにある、白いベンチに腰をかける。日差しが暖かい。寒くもないし、暑くもない、ちょうどいい温度だ。





 ふと、目を開ける。一番星が見えていた。空がオレンジ色と藍色で染っている。

 気づかない間に寝てしまったみたいだ。珍しく、今日は夢を見なかった。残念だ。


 ベンチの隣には、暖かい紅茶が置いてある。ここで毎日昼寝していることは、みんな知っている。メイドのメアリーが置いて行ったのだろう。


 身震いする。少し肌寒い風が当たる。


「寒くなりそうだから、部屋に戻ろう」


 ガサッ


「えっ」


 後ろから草が揺れる音が聞こえた。ここには、私しか居ないはずだ。メアリーなら、まず始めに私の名前を呼ぶだろう。それに、いつも庭にいるから、みんな呆れている。私の面倒を毎日見てる時間があったら、他のことをしている。みんなそんな暇じゃないのだ。


 じゃあ、誰だろうか。背筋が凍る。


 お、おばけ......


 涙目になった。私は前世から、お化けが大の苦手なのだ。小さい頃から、お姉ちゃんに怖い話を、散々聞かされたから、「お化け」という単語すら吐き気がする。

 私は、お化けなんて居ないと信じている。そうでも思ってなければ、部屋から出られない。


 恐怖を感じつつ、音がした方へと足を進める。


 ガサッガサッ


 どんどん遠のいていくから、私は追いかける。どうやら、走っているようだ。私も、追いつこうと走る。手が震えている。


 少し進んだところで、芝生が土に変わった。土には、足跡が着いていた。

 追いかけている相手は、お化けでは無いらしい。ほっとしたのか、震えが少し収まっていた。


 足音が止まった。私はやっと追いついた。

 出た場所は、私が初めて庭に来た時に見つけた、あのドアがある所だった。2年ほど来てなかったが、全く変わってなかった。管理がしっかりしているからだろう。


 いつの間にか、月が顔を出していた。


 月明かりに照らされて、影が見える。私だけじゃなく、もうひとつある。

 暗くてよく見えないが、多分私と同い年くらいか、年上の男の子だろう。


「だ、誰......?」


 恐る恐る聞く。

 その子は、ふっと笑って言った。


「君は僕の婚約者になるんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生が夢だったけど、御令嬢に転生してしまった(泣) 綾綺 瑠梨 @hono1108

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ