第5話 メイドの告白

 

 一世一代の告白で、専属メイドのハンナに剣を辞めると言った俺。

 超勇気を振り絞って言ったのに『そんなことか』と、どうでもよさそうに言われちゃいました。

 えっ? なんで!? 本当になんで!?



「どうしたんですか、ご主人様? 呆気にとられたような顔をして? もしかして、まだ話の途中でしたか? 私、期待してもいいのですか?」



 落胆していたハンナの顔がわずかに輝く。

 何故落胆していたのかわからないけど、俺が新たな道に進むと知ったら嬉しがるかな?



「あ、ああ、うん。俺、剣の才能は無かったけど、魔法の才能はあるらしいんだ。だから、剣を辞めて魔の道に進むよ」


「……………………………なんだそんなことですか。ご主人様のばか!」



 え、えぇー! なんで!?

 なんで、綺麗な紅い瞳でキッと睨みつけ、ムスッと頬を膨らませているの!?


 ………………滅茶苦茶可愛い。


 っと、そうじゃなかった。なんでハンナは驚かないのだろうか?

 ハンナが、はぁ、と深く深くため息をついた。

 そして、コテンと頭を肩に乗せてくる。



「ご主人様の適性はずっと前から知っていましたよ。ようやく理解したんですか?」


「はぁっ!? ハンナもずっと前から知ってたのか? 俺、さっき母さんから教えてもらったんですけど!? なんで教えてくれなかったんだ!?」


「だから毎日毎日言ってましたよ? 剣を辞めたらどうですかーって」



 くっ! まさか母さんと同じパターンか?



「何故その後に、魔法の才能があるって付け加えて、教えてくれなかったんだ?」


「なるほど! その手がありましたか! 次からは気をつけますね! ご主人様のお世話は難しいですねぇ」



 くっ! やっぱり母さんと同じパターンか!

 というか、ハンナは俺のお世話なんかほとんどしてないだろ! この駄メイド!



「私はご主人様に拾われる前、暗殺者として育てられてきました。その経験から、ご主人様が毎日毎日魔力を垂れ流していたことに気づきました。このお屋敷にいる人もほぼ全員気づいていると思いますよ」


 思い起こせば、使用人のほとんど全員から『剣をお辞めください』って言われてたな。

 くっ! 母さんと同じパターンか!

 なんで全員魔法の才能があるって教えてくれなかったんだ!



「今も俺の身体から魔力は漏れているのか?」


「はい! 小さい頃のご主人様のおねしょみたいに駄々漏れです!」


「何言ってんだ! おねしょしたのはハンナも同じだろうが! 量的にハンナのシミのほうが大きかったぞ!」


「な、何言ってるんですか! というか、いい加減忘れてください!」



 真っ赤になったハンナが俺に飛びついてきた。

 ソファに押し倒され、のしかかられ、ポカポカと叩かれる。


 ふっふっふ。ハンナがおねしょした後、泣きながら俺に抱きついてきたこともはっきりと覚えているのだ!

 あの頃のハンナは可愛かったなぁ。今も可愛いけど。


 ハンナは俺を叩くのを止めた。

 俺の服をぎゅっと掴み、胸に顔を押し当てて俺から見えないよう隠している。



「私は小さい頃、暗殺者としてご主人様の命を狙いました」


「そんなこともあったなぁ」


「あの時の私は、ご主人様の剣に負けたんです。そして、倒れ伏した私に向かって手を差し伸べ、『俺の傍にいてくれ』って言ってくれたご主人様を見て思ったんです」



 一目惚れしてプロポーズみたいなことをハンナに言ったなぁ。

 あれっ? 俺って父さんと似ている?

 一目惚れした母さんに即プロポーズした父さんに超似てる?

 最悪だ!


 でも、ハンナは何を思ったのだろう?

 もしかして、俺のことを好きになったとか?

 まあ、今さらそんなこと言われても何となく察しているけど。


 ハンナがガバっと顔を上げ、愛おしそうに俺を見つめてくる。

 俺はハンナの綺麗な紅の瞳に囚われた。



「まぐれだとはいえ、あんな超絶下手な剣技に負けた私は暗殺者としてやっていけないだろうなって思ったんです! だからご主人様の提案に乗っかったんです」



 ハンナが悪戯っぽく、俺を揶揄うようにニヤリと笑った。



「いやー、あの時ご主人様の傍にいることを選んだ私ってえらい! こんなにぐーたらな快適生活をできるなんて、やっぱり私って運がいい! 流石超絶可愛い私!」



 駄メイドはどこまでいっても駄メイドだった。

 はぁ、と思わずため息が出てしまう。

 惚れた弱みなのだろうか。

 こんな駄メイドでもとても愛おしい。


 俺はハンナの細くてしなやかな身体を抱きしめる。

 甘い香りと心地よい温もり、そして柔らかさが俺の心を癒してくれる。


 俺の弱い部分はハンナしか見せられない。

 ハンナにしか甘えられない。

 ハンナもそのことをわかって、俺の腕の中でじっとしてくれている。



「………………ずっと傍にいてくれ」



 俺はハンナがいてくれたから頑張れたんだ。

 だから、これからも頑張るためにはハンナが必要だ。



「私はご主人様の傍から離れるつもりはありませんよ。死んでも化けて出てきてやります。じゃないとご主人様はダメダメになっちゃいますからね」


「化けて出てくる前に死ぬな。生きて俺の傍にいろ」


「では、ご主人様が守ってくださいね」



 ニヤニヤ笑いではなく、輝く笑顔で微笑んでくれる。

 そして、俺の腕の中で気持ちよさそうに寝そべっている。

 俺は決意を新たにする。

 俺は愛しい人をあらゆる敵から守れるだけの力が欲しい。

 強くなりたい。



「………俺は強くなる。絶対に守るから!」


「はい!」



 お互いの気持ちは何となくわかってる。

 俺はハンナが好きで、たぶんハンナも俺が好き。

 俺たちは夕食の準備ができたと呼ばれるまで、抱きしめ合ってソファに寝転がっていた。











「目指せ! のんびりぐーたら快適ヒモ生活! ご主人様、私を養ってくださいね!」


「最後の最後で台無しだよ! この駄メイド!」


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