第4話 専属駄メイド

 

 剣帝の父さんが打ち滅ぼした邪悪なる魔帝の正体が母さんだったと先ほど聞かされ、俺はまだ実感が湧かず、トボトボと自分の部屋に戻る。

 怪我は母さんの治癒魔法によってすべて回復した。


 使用人たちに挨拶されながら家の中を進み、自分の部屋のドアを開ける。

 お湯を沸かすためのコンロが備え付けられたちょっと広い部屋。

 俺の部屋兼寝室だ。


 倒れ込もうと思った俺のベッドの上には、ミニスカートのメイド服を着た少女が我が物顔で寝そべり、恋愛小説を読んでいた。

 白くて肉付きの良い太ももやふくらはぎが惜しげもなく露出されていて艶めかしい。

 メイド服のスカートからは黒いガーターストッキングとガーターベルトが覗く。

 そして、形の良いお尻と白いレースの下着がわずかに見えている。

 素晴らしい光景だ。


「あぁ…ご主人様おかえりなさーい。今日は早かったですねー」


 彼女は手をヒラヒラと振り、俺に気づきながらもベッドから降りる気配はない。

 彼女の名前はハンナ。俺の専属メイドだ。

 年齢は俺と同じ16歳。ボブカットの綺麗な黒髪に、綺麗な紅の瞳。ハンナも妹のソマリアと同じ、男を見惚れさせるほどの美少女だ。

 ただ、見た目とは裏腹に、中身はちょっと残念。


「ただいまハンナ。ちょっといろいろあってね」


「ご主人様はまたボコボコにされたんですかぁ? はぁ、仕方がないですね。さあ、カモーン!」


 やれやれ、とハンナが起き上がり、ベッドに座ってバッと両手を広げる。

 俺にはハンナが何をしたいのかがわからない。

 ハンナがキョトンと首をかしげる。


「いつも通り私の胸に飛び込んで、おっぱいに顔を擦り付けながら泣き喚かないんですか? 私がたっぷりと癒して差し上げますよ?」


「そんなこと一度もしたことないぞ!」


「あっ! おっぱいじゃなくて太ももでしたね。これは申し訳ございません」


 と言いながらハンナはミニスカートをゆっくりと上げていく。

 露わになる肉付きの良い白い太ももとガーターベルト。

 下着が見えるギリギリのところで止まってしまう。


 白の下着ということは先ほど見たのでわかっているのだが、俺はゴクリと生唾を吞み込んでしまう。

 何故、見えそうで見えないというのはエロいのだろうか?


 太ももに目が引き寄せられていた俺をハンナがニヤニヤと見つめている。


「そんなに凝視しちゃって! ご主人様のえっち!」


 恥ずかしくなって俺は目を逸らした。顔が熱い。


「………………う、うっさい! それに、俺は太ももでもしたことはない!」


「私はご主人様のモノなのですから、この身体を自由にしてよいのですよ?」


「………………だからうっさい!」


 ハンナがクスクスと楽しそうに笑った。

 俺の専属メイドのハンナは、俺を揶揄うことを毎日の日課としているのだ。


 俺は彼女に一度も勝てたことがない。

 初恋の女性に俺は勝つことができない。

 今でも好きだけど。


 ハンナが立ちあがってソファに座った。


「ご主人様。お茶ください」


「はいはい。ちょっと待ってて」


「はーい!」


 ハンナは元気で可愛らしい声で返事をした。

 俺は備え付けのコンロでお湯を沸かし始め、お茶の準備をする。

 俺とハンナの好きなお茶は紅茶じゃなく緑茶だ。


「ハンナ。お饅頭あるけど食べる?」


「食べます食べます!」


「夕食の前だから一つね」


「えぇー! でも、仕方がないので我慢します」


 うむ、我慢できてえらいえらい!

 俺は俺とハンナの分のお饅頭と緑茶を準備すると彼女の隣に座った。


 まずはお茶を一口。

 ズズズッ。はぁ~美味しい。この渋さがいいんだよねぇ。


 そして、お饅頭をパクリ。

 はぁ~美味しい。この小豆の程よい甘さが好きなんだよねぇ。

 ちなみに、粒あん・こしあんのどっちも好きです。


「はふぅ~美味しいですぅ」


 隣のメイドも幸せそうだ。よかったよかった。


「美味しいなぁ………………って、何故俺はいつもいつも毎日毎日ハンナのお茶の準備をしているのだろうか? ハンナはメイドだよな?」


「メイドはメイドですが、私はご主人様の性処理用愛玩メイドです。料理は管轄外です」


「ぶふぅっ!? せ、性処理用愛玩メイドって何だよ! なに嘘ついてんだ!」


 思わずお茶を噴き出してしまった。

 テーブルを拭かなきゃ。タオルタオルっと。


「………………性処理でも何でもしてあげますのに…このヘタレ!」


「んっ? 何か言ったか?」


「何でもございませんよ。超絶ヘタレのご主人様!」


 なんかハンナが呟いた気がしたけど気のせいか。

 って、超絶ヘタレのご主人様って何だよ!

 ヘタレで悪かったな!

 男にはいろいろと準備が必要なんだよ!


「私の料理の腕をご存知でしょう? ご主人様にお茶の準備をしたら、虹色に輝く液体を飲むことになりますが、それでもいいですか? ご主人様って自殺願望でもありましたっけ? それとも、ドМだったり? 私はご主人様がどんなご趣味をお持ちでもお傍にいますよ」


「デジャヴ! だからなんでそうなる! 俺はそんな願望も趣味も持っていないから!」


 数時間前にも妹のソマリアに言われた気がするんだけど。

 俺はMじゃない! そんな趣味は持っていない!


「デジャヴ? 似たようなことを言われたのですか?」


「つい数時間前にソマリアにな。剣でボコボコにされた後に言われた」


「…………チッ! あの雌ブタめ!」


「何か言った?」


「いいえ何も!」


 おかしいなぁ。

 一瞬ハンナの可愛い顔が悪女の顔になった気がするんだけど、気のせいか。

 光の具合で変な風に見えただけだか。


 さてと、そろそろハンナに伝えないといけないな。

 十年近く一緒に居るハンナには俺の口から伝えなくちゃいけないことだ。

 俺はハンナの綺麗な紅の瞳を見つめる。


「ハンナ。実は言いたいことがあるんだ」


「ひゃ、ひゃい! な、なななななんでございましょう? 告白? まさかの告白ですか!?」


 慌てふためくハンナなんて珍しいな。

 レアなハンナを見ることができてちょっと嬉しい。可愛いな。


「まあ、告白と言えば告白だな」


「ひゃぅっ! ………………どうしよう。私、とうとう告白されるの? 今、勝負下着じゃないんだけど! まだお風呂にも入っていないし。でも、頑張れ私! あのヘタレのご主人様が勇気を出して告白をしてくれるんだ。私頑張れ!」


 何やらハンナが俺に背を向けているけどどうしたんだろう?

 影でクスクスと笑っているのかな?

 そうだ。この駄メイドならそうに違いない。

 耳が真っ赤で身体もプルプルさせているから、笑いを堪えているんだな。

 はぁ…剣を辞めるって言ったら、盛大に揶揄われるんだろうなぁ。


「ハンナ!」


「は、はいです!」


「俺、剣を辞めるよ」


「はぁ? …………………………なんだそんなことですか。ご主人様のばか!」


 がっくりと肩を落とし落胆した表情で可愛らしく罵倒してきた。


 え、えぇー!

 剣を辞めるって一世一代の告白をしたのにただそんなことって……。

 えぇー! 反応それだけ!?

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