第2話 衝撃の事実
騎士学校から帰った俺は、使用人に荷物を渡すと家の訓練場で剣を振るう。
基礎中の基礎。素振りだ。
何百回、何千回と、一心不乱に時間を忘れて、体力が尽きるまで剣を振り続ける。
俺の父、アーク・ウィスタリアは世界最強の剣士、剣帝だ。
膨大な聖力を扱い、剣を振れば遠くの山が切断される。
化け物のような剣士だ。
ここ、ガイウス帝国では皇帝陛下よりも国民に人気である。
二十年ほど昔、父さんはパーティーを組んで、魔法を操る邪悪な魔帝を打ち滅ぼした。
その多大な功績で、平民だった父さんは一気に公爵の地位に上り詰めた。
領地は持っていないが、近衛騎士団の団長という役職で、日々皇帝陛下を警護している。
そんな剣帝の息子である俺、ルクシア・ウィスタリアは剣を振っても振っても全く上達しない。
剣帝の息子であるのにちっとも上手にならないのだ。
毎日毎日手のひらが血に染まるほど剣を振り、体を鍛えるが、全然身に付かないのだ。
一つ下の妹、ソマリア・ウィスタリアは俺とは違い剣の天才だ。
父譲りの剣の腕前と膨大な聖力。
そして、将来絶世の美女になるであろう絶世の美少女だ。
俺はソマリアに一回も勝ったことがない。
15歳という若さながら、帝国最強の騎士団である近衛騎士団の所属が決まっているのだ。
何人か近衛騎士団の騎士をぶっ飛ばしたという噂も聞く。
俺の自慢であり、羨ましい妹だ。
俺は汗と血を流しながら今日も剣を振るう。
振って振って振りまくる。
歯を食いしばり、体力の限界まで振り続ける。
どのくらい剣を振っていただろうか。
一瞬だけ集中が途切れた瞬間に、女性の声がかかった。
「あら? ルクシア? また剣を振っているの?」
振り向くと、綺麗な金髪で、瞳が紫色の美女が立っていた。
綺麗なドレスに身を包み、スタイルの良い身体を惜しげもなく披露している。
俺の母であり剣帝の妻、アリシア・ウィスタリアだ。
社交界の花である母さんがおっとりと微笑んでいる。
丁度王城で開かれていたお茶会から帰ってきたらしい。
「母さんおかえり」
「ただいま。ルクシアもおかえりなさい。帰ってからずっと剣を振っていたの?」
「……うん」
「全く、まだそんな無駄なことをしているの?」
おっとりとしている母さんは無自覚に俺の心を抉る。
天然なところが母さんの良いところであり悪いところでもある。
「ルクシアは剣の才能なんてないんだから止めなさい」
「でも、俺は剣帝の息子なんだ! 頑張ればいつかは…!」
「あらあら。それは無理よ。凡人以下のルクシアがどう頑張ったって凡人にしかならないわ。剣は諦めなさい」
無自覚に残酷な事実を突き付けてくる母さん。
俺の手から血で濡れた剣が滑り落ちる。
カランッと金属の剣が地面に落ちる音が響いた。
「………俺は剣帝の息子なんだ……剣帝の息子なのになんで!?」
血が流れる手を握りしめる。
悔しさで涙が零れてくる。
剣帝の息子、剣帝の息子、と周囲から何度も何度も何度も何度も期待され、俺の剣の腕を知ると、冷たく嘲笑い、馬鹿にされてきた。
どれほどの重圧だったと思う? どれほど頑張ってきたと思う?
血反吐を何度も吐いて剣を振っても全く上達せず、一番傷ついて絶望して憤怒したのは俺だ!
なんで少しも上達しないんだ! 俺は剣帝の息子なのに!
「ルクシアはアークに顔立ちはそっくりでイケメンなのよねぇ。ソマリアちゃんは私に似て美人さんなのよねぇ、私に似て」
片手を頬に当てコロコロと笑う母さん。
何故自分に似ていると二度も言って強調させたのかはわからないが、絶望している俺にはどうでもいいことだ。
まあ、ソマリアが美人なのは認めるけれども。
「でも、ルクシアとソマリアちゃんは中身は正反対なのよねぇ。アークの剣帝の才能を受け継いだソマリアちゃんに、魔帝である私の才能を受け継いだルクシア。本当に面白いわ」
そうだよ。妹のソマリアは父さんの剣の才能を受け継いで、俺は全く受け継がなかった。
俺が受け継いだのは母さんの才能だけ………………ってあれっ?
今、母さんは何て言った?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます