第2話 早瀬 真美の依頼 2
天狗の住処と言えば自然豊かな山とか森と相場は決まっている。
だから俺は町の周辺にそう言った場所がないか調べてみる事にした。
「いや、そんな場所ないな。あっても遠すぎる」
しかし残念な事にこの町はそこそこ開発が進んでいて、コンクリートジャングルといっていい。離れた場所には該当しそうな場所はある物の、大体は人の手が入り整備された場所が多かった。そうなってくると天狗がいそうな場所が分からなくなってくる。
「大体ここら辺って霊的に濃度が濃い場所ばっかなんだよなぁ」
人気が少なくて霊的濃度が高い所に絞ってみても数は多く、手当たり次第に当たるのは愚策だろう。
「さてさて、難しい事になったな」
「どうしたんですか?」
「何時からいたの? いやね、皆月さんが何処にいるのか分かんなくてね」
いつの間にかいた早瀬が横から地図を覗いていた。長い黒髪から女性的な良い香りが鼻をくすぐる。俺は顔が赤くなるのをごまかすため早口で喋り始めた。
「皆月さんが居そうな場所には大体当たりが付いたんだけどね。候補が多すぎるんだ」
「それじゃあ人手があれば何とかなるんですか?」
俺が頷くと早瀬は何処かに電話をし始めた。
・・・
早瀬が何処かに電話をしたかと思ったら30分後には約20人の男女が俺の事務所に押しかけてきた。意味が分からない。しかもその誰もがチンピラのような風貌をしている。こいつらと早瀬はどういう関係なんだろうか。
「みんな、集まってくれてありがと!」
早瀬がそう言って頭を下げると集まった20人から大きな歓声が上がった。
相当好かれているのだろう。本当にどういう関係なんだろうか?
「姐さんは俺達を助けてくれた恩人なんだよ。あの人の為なら命だって惜しくない」
10人の中でリーダー格だろうリーゼントの大男が俺の疑問に答えてくれた。
何でもそれまでの経歴のせいで雇い先も見つからず、自棄になっていた彼らの事を早瀬は本気で心配し、相談に乗って仕事先も紹介してくれたんだそうだ。
「そりゃあ凄いな」
「あぁ、だから俺らは姐さんに幸せになってほしいんだ。アンタが何者か知らんが、姐さんに何かしたら分かってるだろうな?」
そういってリーゼントは俺の肩に手を置いた。凄い握力だ。肩が激痛と共にミチミチと音をたてた。痛みに思わず顔を歪めそうになるが、ナメられるのも嫌なので無理やり笑顔を作る。
「あの子は俺の雇い主だ。お前さんが考えてるようなことはしないよ」
「ならいい」
リーゼントの顔から警戒の色が無くなった訳ではないが、肩から手を放してくれた。一応は敵じゃないと分かってくれたんだろうか。
これだけの人手があれば皆月の居場所を探し当てる事も早くなるだろう。俺はこの町の地図を広げるとチンピラ達を呼び集めた。
「えっと、この地図に印がしてある場所の中でカラスが多くいる場所を探してほしいんだ。理由は言っても信じないと思うが――」
「いや、それが姐さんの願いなら理由は別にいらん。カラスが多い場所を見つけてくればいいんだな」
リーゼントがそう言うとチンピラ達は地図をスマホで写メりながら何処を見に行くかリーゼントに言って次々と出て行く。その光景はまるで統率がとれた軍隊の様だった。
「大体1時間ってところだろうな。それ以外にやることはあるか?」
「ないかな」
ぶっちゃけ、俺よりこいつらの方が探偵に向いてる気がする。
・・・
驚くべきことにチンピラ達は本当に1時間で仕事をやり終えた。俺の監視役なのか残ったリーゼントの携帯に次々と報告が入っていく。
「一番多そうなのは東区の廃ビル群があるところだな。時点が焼却場、火葬場だ。というか、そこ以外にカラスは殆どいなかったってよ」
「そうか、ありがとう」
俺はチンピラ達の能力の高さに慄きながらもそれを悟らせないように礼を言った。これが本当だとしたら皆月の居場所はかなり絞り込まれたといっていい。
「廃ビルか。まぁ、ありえそうだな」
インフラが生きていれば人が住むのにも、隠れるのにも適している場所だ。
「美紀の居場所が分かったんですか?」
「まぁ、100%ではないですが」
「では行きましょう!」
「準備をしてから……って、え?」
「なにを悠長な! 早く行きますよ?」
「え? 早瀬さんも行くんですか?」
「もちろんです!」
いやいやいや、どうしよう。完全に予想外だこれ。
まさか着いてくるとか言うと思わなかった。
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