第一交渉
依頼人と会議を催してから三日、遂に代理謝罪の決行日がやって来た。村崎が手掛ける最初の謝罪でもある。謝罪をする村崎もそしてそれを陰ながら見守り成功を祈る小西や佐鳥も緊張と不安を心に秘めていた。ただ見守る側の二人はそういった思いを抱きつつ、成功すると信じていた。
その日の村崎の服装はどこにでもいそうなサラリーマンを連想させるような背広を着ていて正装で彼の初めての代理謝罪に臨んだように見てとれた。歩き方はいつもと比べて
インターホンをぽちっと鳴らした。ここからは村崎の苦労のスタートである。基本的にインターホンに反応してくれることはないのでその可能性の低い反応してくれるときを待つことがここからの村崎の役割で何度も押すものの不自然ではないくらいに間を空ける必要もある。この間を空けるというのが難解なのである。
しつこいのはダメなのは分かっていてもこんな時期にずっと外にいたら身体が持たないためにできるだけ端的に終わらせられると良いと思ってしまう。村崎は我慢することがそれほど得意ではないのでできるだけ自分にとって良い方向に持っていってしまうのだ。
村崎は色々考えた末に開ける間を一時間とした。この一時間という時間が村崎という人物を象徴しており、この謝罪に対する本心の表れでもあった。
間であるその時間は村崎にとって反応してくれたときにどうするのかという考える時間になっていた。初めての代理謝罪であっても成功させたいという思いは大きくあってよく言われる言葉で表現するとスキマ時間を大切にして成功への綱を引いているのである。
そんなことをしているうちに一時間が経ち、インターホンを鳴らした。こちらに対する反応こそなかったが先程鳴らしたときにはなかった家の中での音が微かにではあるが聞こえてくる。このチャイムに対する反応と考えても良いだろう。謝罪相手は依頼人と同級生であるはずなのでこんなに機敏に動くような音が聞こえてくるとは考えにくい。他に誰かがいるに違いない。
ただその家に謝罪相手の他に誰がいるのか依頼人ですら分かっていない。その家にいる人物がインターホンに対応するかどうかを決めている人なのかもしれない。つまり家に誰がいるのかを明らかにすれば今後の対応への進展も期待できる。
村崎は佐鳥に連絡を入れてその旨を伝えた。ここであえて佐鳥にした理由としてまず小西よりも話しやすいというのが大きなところだろう。それに加えてこのことを事務所の一番偉い人、村崎にとっての雇い主にお願いするのは気が引けたからであろう。
これが分かる可能性が見えたというのが一日の中で最も大きな収穫である。このあとに繋がる綱を村崎は掴んだ、といったところだと思う。
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