依頼人との話し合い
それから数日して小西たちは初めて依頼者の顔を見ることとなる。依頼人が謝罪の方法について話し合いをするためである。彼女の容姿としては既に七十を越えているとは思えないような若さと服装や化粧は着飾らず、質素で落ち着いているという印象を持った。
小西と村崎は、といいつつも担当である村崎が基本的には考えている、およそ五つの案を用意はした。ただ謝罪をする人の今の状況からすると現実味が薄いものも中には含まれていてそれを除くと二択という実際は内容の薄い話し合いになっている気がする。
正直誰もが思い描いていたこととは思うが、五つの案を依頼人に話したところ現実味のある二つの案のみに絞られた。その二つの案とは何も考えずにただひたすらインターホンを鳴らして出てもらうのも待つパターン、そしてもうひとつは宅配便業者を装ってインターホンを鳴らし宅配便だと思わせて出てきてもらうパターンである。後者のやり方だと謝罪する相手に出てもらうことはそれほど困難にはならないものの最初に騙してから本題の方に入ってもいまいち言いたいことが伝わらない可能性があるということを心に留めておかなくてはならない。待ってでも正当なやり方なのか強硬的に突破してしまうのか、ここが今回の焦点だった。
小西はメリットとデメリットの両点を伝えつつどちらの案の方が思い描いている謝罪を実現することができるのかという依頼人側の立場に立って話し合いを進めていった。
小西と依頼人の間で様々な言葉が飛び交い、そして飛び交った。小西のモットーとして納得してもらうまで話をするというのがあるのでその一貫とも言える。
一時間を越える長い時間の話し合いの末、時間がかかることは承知の上で第一案であるひたすらインターホンを鳴らすという案に決着した。時間はできる限り短い方が良いということであったが嘘を言ってまで短縮させるものではないしその嘘によってどうなるかは未知数なのでやめておこうということになったのである。
どの案にするかを決めたところで依頼人との話の相手が小西から今回の事案を担当する村崎に交代した。ここからは更に細かい話を詰めていくのである。
まずはスタートの日時であるが依頼人本人は直接関係はないのだが、謝罪相手のことを知っている依頼人とそこについては話をすべきなのである。依頼人からできるだけ早くということだったので準備ができ次第というのがスタート日時となった。
次に謝罪する細かい内容、その内容に関する注意点など代理で謝罪するに当たってのメインのことが話し合われた。ここには村崎もピリピリとして一語一句間違えないようにとしっかりメモを取った。
決めることはすべて決めたので依頼人に依頼されたところまで終わったら再び連絡しますと村崎は伝えた。コートを持ってよろしくお願いします、と依頼人は言って事務所を出ていった。
依頼人が帰った後、話し合いを踏まえた代理謝罪のやり方について小西・佐鳥・村崎の三人で再び話をした。大きく何かを、ということはなくやり方を再び確認した程度に留まった。そして準備ができてから、日にちとしては三日後から実施することに決まった。それまでの間村崎は代理謝罪の確認、小西と佐鳥はバックアップとして謝罪相手の家の位置や家族構成などそういったことを調べることをすることとした。
村崎が自らやる初めての代理謝罪が始まるのである。村崎もドキドキしているが見守る側の二人も心配であるが期待もしているのである。
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