事務所に入った依頼

 事務所に設置されている電話がチリンチリンと音を鳴らし、主である小西のことを呼んでいる。持っていたペンを机の上に置いて利き手で受話器を取った。

「こちらは株式会社代理謝罪です。ご依頼者様の代わりに我々が謝るということをしております。」

電話に出るときに決まり文句である言葉を言い終えると電話口でありながらも日本人特有の相槌を見せてメモを取るべく持っていた受話器を逆の手に持ち変えて電話の内容を箇条書きで記していった。

「お承いました。こちらの方で一度検討致します。後日詳細な話をする際にいくつか考えさせていただく案を提示致しますのでそこからプランを練っていていくというスケジュールです。ではよろしくお願い致します。失礼します。」

 小西は受話器を取ってから置くまで一連の流れが電話対応には重要であって室内の状況が分からないくらいまでとことん対応するのだといつも村崎に言っている。

 電話を終えてからも小西は電話中に書いたメモとにらめっこしてボソボソとあれはどうだ、これはああだとか言っては書いている。 その様子がまるで悟りの境地に入った釈迦のようだった。

 メモと小西との格闘はおよそ二十分に渡り繰り広げられ、二十数分前には真っ白だった紙が今では小西語と佐鳥が呼ぶ字によって埋め尽くされていた。そのメモを持って佐鳥や村崎がいる小さい机と柔らかい生地でできた椅子、ソファーがある部屋に行った。基本的に会社に役立つ情報収集だったり謝罪コンサルトとしての活動だったりをする時間が多いのでそういったときにはこの部屋を利用することがメジャーなのである。その部屋に小西が現れるというのは会議の始まりを告げるいわばチャイムである。

 小西が部屋にある椅子のうちの一つに腰掛けると佐鳥や村崎はやっていたことを一度中断しそれぞれが椅子に座り、自然と会議が始まった。

 「先程謝罪の依頼が入った。今回の依頼は高校生の時に関係を悪化させてしまった友人に謝りたいということだったが、謝罪相手が身体が不自由になってしまっているらしく家から出ることはほぼないらしい。また家を訪問しても決まった人のみしか対応をしてもらえなく、依頼人側も何度も挑戦しているものの未だ対応をしてもらえていないということだ。」

「小西さんはこれをどのようにしようとか決まっていますか。」

「今回はできる限り若い者に任せた方が良いのではないかと思っている。だからお前にやらせる予定だ。」

自分で質問したことに対しての返答が驚きすぎて困惑した顔を見せた。

「謝罪相手の年齢が七十をゆうに越えていてできるだけ若い人の方が話を聞いてくれるかもしれない、と依頼者から話があって会社で最も若い人に謝罪に行ってほしいというお話で村崎に今回は任せることにした。」

半ば強引とも言えるやり方で村崎が今回の代理謝罪を担うこととなった。

「大丈夫、俺と佐鳥が万全の体制でバックアップするから。ドンと行ってこい。」

そんな声をかけて小西と佐鳥は村崎の背中を押した。

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