だらしなスギ子の事件簿
しょもぺ
第1話 『飲んで呑まれてハメられて』
人はなぜ自堕落になるのか?
育ち? 環境?
ひとことで言えば、ストレス社会からの現実逃避だ。
ここに、ひとりの女性がいる。晒名 栖妓子 (さらしな すぎこ)25歳。デブ。
彼女もまた、毎日の生活の中でストレスを溜め、それを酒や買い物で鬱憤を晴らす。
しかし、それが限度を超えたところで、彼女の生活は終止符を打つことになる。
『第1話 飲んで呑まれてハメられて』
「ピピピピピ!……ピピピピピ!……」
スマホのアラームがさっきから鳴り続けているような気がする。
でも、どうでもいい……わたしゃ眠いんだよ……
ボーッとする頭で、だいたいの時間を考えてみる。まだ8時くらいか……
今日はたしか日曜日だし、早起きしなくてもいいハズだ。まだ寝れる。
そう考えながら、うすら目を開けると、わずかな日の光が窓から差し込んでいる。
あれ? いつもと日の光の位置が違うような気がする……
サンシェードの位置も形も違うような気がするし、なんだかベッドもフカフカ過ぎる気がする。
「わぁッ!」
私は、驚いたネコのように飛び起きた。
(やばいッ!……これってゼッタイやば過ぎるーッ!)
ここは、ラブホテルの一室だということは、瞬時に理解できた。
丸い円形のベッドに、ピンクのうっすらした照明。観葉植物がセンス良く置かれている。枕元には、定番のテッシュとコン○ーム。ゴミ箱には丸まったテッシュ。
おそらく……いや、確実に、1000%間違いない。
(やってもーたーッあああッ!!!)
ドッと脂汗が浮かび上がる。血の気が引く、「サーッ」というありえない擬音も聞こえる気がした。そして同時に、自分の目線を下げると、たるんだ脂肪につつまれたデッ腹が視界に入る。裸だった。あせってあたりを見回してとりあえずガウンのような物を羽織る。そして同時に、ある疑問が浮かび上がる。
(私……誰とヤッちゃったの……?)
室内を見回しても、自分以外誰もいない。
「シャー……」
ドキッ! っとして振り向くと、お風呂場の水が出ていることに気付く。おそらくシャワーの音だ。もしかして、ここで一夜をともにした男性が、お風呂に入っているのだろうか? いや、まてよ……そう、そうそう! 確かに私は昨日飲みすぎて、はじめて会った誰かとともに深酒したのであって、それが男性とは限らない。もしかしたら、それは女性で、終電が無くなったのでホテルに一緒に泊まろうとしただけかもしれない。そう、そうに決まっている。さすがに、私はそれほどルーズで自堕落な女じゃないのだから。そう思うと、なんだか気が楽になった。
「そうだわ。そうに決まっている!」
私は徹底的にそう思い込もうとした。それ以外の結果を考えないことにした。
それにしても、もし誰かの女性と泊まったのなら、ひと声掛けてもいいだろうと思った。私は、そっーっとお風呂場に近づき、耳を済ませた。
「シャー……」
相変わらず、シャワーから出る温水が何かに当たってはじける音がわずかに聞こえる。どうしよう? 声を掛けるべきか? それともこのまま出るまで待っていようか? いや、待つのはキライだし、早くその女性の顔を見て安心して落ち着きたい。
私は、意を決してお風呂場の脱衣所へ入ると、すりガラスからうすぼんやりと見える体のシルエットを確認し、声を掛けた。
「あの~……入ってますよね?」
当たり前だ。お風呂場でシャワーが流れているのならば、誰かが入っているに決まっている。しかし、返事はないので、私はもう一度声をかけたが、それでも反応は無かった。短気な私は、はやく誰が入っているのか知りたくてたまらなくなり、コンコンとドアをたたいた。中にいるのは女か? それとまさか男なのか?
頭の中でグルグルと男女男女男女男女男女男女男女男女男とリフレインが繰り返す。
「あの、入っているんですよね? 私、昨日の……」
そう言い掛けて、私はあることに気付いた。すりガラスの向こうの肌色をした人影は、どうやら立っているのではなく、どちらかというと斜めに座っているように見えた。
(あれ? お風呂で寝ちゃってるんですか?……まさか、私じゃなかろーに)
ある疑問がよぎる。
お風呂が気持ちよくて湯船で寝るのはありえるが、シャワーに打たれたまま寝ることはない。では、どういう状況なのか? 男かも女かも知れないこの人物が、シャワーを浴びたまま眠る変わった人なのかもしれないとは考えにくい。私は、高鳴る心臓の鼓動を抑えて、そーっとドアを開けてみた。すると……
「ギャアアアッ!!!」
あわあわと私は腰をぬかし、その場にへたりこんでしまった。
それもそのハズ。目の前には、裸で血だらけの男性が、うらめしそうな顔で目玉をギョロつかせて死んでいた。一瞬見ただけで、それが死体だとわかるほどのわかりやすい死体だった。
晒名 栖妓子 (さらしな すぎこ) 25歳。デブ。
彼女の不幸なストーリーは始まったばかりである。
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