第4話 屋敷のメイド
自分の家より何倍も広い屋敷をアリスが見上げていると、背後の森から遠い玄関までメイドが駆けていった。脇に大きな手紙を抱えていて、随分慣れてしまったアリスは、驚くどころか興味深そうに後を付いていく。
メイドが玄関のドアをノックすると、別のメイドが出てきた。
「はい〜?」
「女王様から公爵婦人様へ、クロケーのご招待です!」
「ありがとうございます〜」
手紙を渡し、使いのメイドは森へまた駆けていく。屋敷のメイドは手紙を壁に立てかけ、よいしょ、と玄関の小さな段差に腰かけた。
一連の流れを見守っていたアリスは、自分が公爵婦人に会いに来たことを思い出して、自分も玄関までやってくる。走らずにのんびりと辿り着き、ドアをノックした。
屋敷のメイドが溜め息を吐き、首を横に振る。
「ノックしても無駄ですよ〜担当の私が今此処でサボってますから〜。ていうか、貴女誰ですか〜」
「えっと……」
アリスと知られてはならないとイモムシの女の子が言っていたことを思い出し、アリスは本名を告げる。
「ふ〜ん。良いですね〜変な名前ですが、身なりの良さそうな服を着れて〜。貴女が羨ましいし〜公爵婦人はもっともっと羨ましいです〜。記録の魔法ですよ〜私なんて料理の魔法なのに〜。体からコショウを出すとか、そんなものでしかないのに〜」
身なりやら階級やら、アリスにとってはおとぎ話のような話だが、魔法が羨ましいと言われれば同意する。
「魔法かあ……私は死の魔法が使えたらいいなあ……それで、幸せに死ぬの」
「へ〜んなの〜死にたいなら女王様に頼めば一発ですよ〜」
「女王様……」
アリスは壁にあるクロケーの招待状を見た。
(公爵婦人についていけば、会えるかな?)
メイドに目を向け、扉を指す。
「入っても怒られない?」
「どうぞ〜誰も怒りません〜大丈夫ですよ〜」
「ありがとう、お邪魔します」
アリスは一つ礼をして、中に入っていく。
迎え入れた玄関ホールは、遊園地のお城よりかは小さかったものの、廊下や階段が左右に別れ、ドアもあの廊下以上に沢山ある。
(こ、これを、一つずつ調べ……いやいや、人のお屋敷……)
流石に常識外れな事はできないようだ。そこで、アリスは大きな声を出して人を呼んでみた。結果として人は来なかった、が。
「あはは!うるさいよ!」
背後から声がした。
振り向けば、ニヤニヤと笑う猫耳のお兄さんがいる。尻尾まで揺らして、可笑しそうだ。
アリスはどこから突っ込めばいいのか分からず、何も突っ込まないことにした。その代わりに、案内を頼もうと少しだけ近付く。妙な距離を取ってしまうのは、不審者である可能性も否めないからだ。
「あの、初めまして……公爵婦人に会いたくて……」
「公爵婦人に、へえ! お客様かいあはは! いいよ、おいで! あはは!」
何故、そんなにも笑うのだろう。
距離を縮めることもできないまま、アリスは猫のお兄さんについていった。
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