第3話 森のイモムシ
白兎の青年を見つけるよりも先に、地面に足が着く。服は何故かもう乾いていた。
段々不思議な事にもなれてきたアリスは、目の前に広がる森へと入っていく。草花の他に、背丈と同じくらいのキノコが生えているのを見て、アリスは鍵や小さな物が置いてないかと見渡した。
結果として、見つけたのは一人の女の子である。丸い緑色のショートカットと丸いドレスを着て、まるで、イモムシみたいだと思ったが、失礼にも程があるのでアリスは黙っておくことにした。
女の子は年齢にそぐわない水タバコを片手に、不機嫌そうにアリスを睨んだ。
「何よ」
「あ……ごめんなさい。初めまして、私は……」
「自己紹介なんていらない。アリス、って呼ばれてるんでしょ貴女。でもね、気を付けなさい、此処でアリスなんて名乗ろうものなら一生後悔することになるわ。ま、黙ってても勝手にばれるけどね」
アリスは思わず、目を瞬かせることしかできなかった。夢や不思議の作用は、登場人物にも行き渡っているのかと思考をめぐらせる。
(夢だから当たり前か)
アリスは一人で納得しようとしていた。腕を組み、うんうんと頷いていた所で、女の子が舌打ちをする。
「ちっ、これも言わなきゃ駄目か……アリス、あたしはね、予言の魔法が使えるの。だから、名前も未来も簡単に掌握できる」
魔法、という非現実的な言葉に、少しだけ反応が遅れる。結果として、アリスは目を光らせた。
「魔法!? 凄い!」
女の子は呆れたように肩を竦める。
「何言ってるのよ、貴女も使える癖に」
「使えないよ?」
「使えるのよ。何かとか、何故かとかは教えてやんない。その事実は、少なくともこの物語では明かされないわ。知っても制御できなさそうだけど」
物語、と言われてアリスは首を傾げる。女の子はアリスを真っ直ぐに見つめ、水タバコを加え直した。
「人は誰しも人生っていう物語の主人公なのよ」
アリスは女の子の言葉に、私の物語は余程質が悪そうだ、と少しだけ感じた。
女の子はアリスをまた見やってから、水タバコを吹かす。
「……、己の内には味方がいるし、勿論敵もいるわ。そういうものよ。私はどちらでもないけど……これは教えてあげる。『左は大きくなって、右は小さくなる』」
アリスは頭をひねってから、ああ、と納得したように頷いた。
「体が、かな? ありがとう! そうだ、白兎さんが行きそうな場所とか知らない?」
白兎、という言葉に反応して、女の子は怪訝そうな顔をする。
「貴女、あいつを捜してるのね……ほっとけばいいのに。ま、良いけど。その内めぐり会えるから、今は公爵婦人の元に行きなさい。簡易的な地図をあげる」
女の子は何処かから地図を取り出し、アリスに渡した。アリスはありがとう、とお礼を口にする。
「ふん、予言に従っただけよ、あたしは未来に逆らえないの。まあ、ほとんどの奴がそうだけどね。貴女もそうだけど……可哀想に、死にたかったのに邪魔されたのね」
「邪魔……?」
「後で知れるから待ちなさい。じゃ、さよなら」
話は済んだとでも言うように、女の子は適当に手を揺らした。
「う、うん……今更だけど、子供がタバコ吸っちゃ駄目だよ」
「あたしはもう老いぼれよ」
アリスは今までで一番驚いた。思わず言葉を失い、上から下までまじまじと見てしまった程だ。はっとして謝るものの、女の子はタバコを吹かして、もう相手にはしてくれなかった。
アリスは周りを見渡す。左と右がありそうなものを探したが、キノコしか見当たらない。そこで、試しにキノコの両端をちぎり、一口ずつ口にしてみた。左のは体が大きくなり、右のは 体が小さくなる。
「便利アイテム……! ありがとう!」
アリスはスキップを不器用に踏みながら、渡された地図の元へ向かった。
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