第3章 修学旅行

しゅっぱーつ!

「ねえ、いかないで?佐高さんの所行くんでしょ?行って欲しくないの」

僕の手を掴んで引き止めるのは、冴島だ。


「なんで、冴島さんがそんなこと言うの」


「・・・・・・私もわかんないよ。自分の気持ちがよく分からないの。でも、でも、、」



「おねがい、いかないでっ」


──ピコンッピコンッ


『(─────)』『(─────)』『(─────・・・・・・・・・


否応なしに、現れる選択肢と僕の手を握って離さない冴島。どうして、こうなったーーー!




*********



「1組はこっちに集合ー!」と担任の呼び掛けに、背の順で並んでいく。西野は後方で僕は真ん中。

「桐嶋くん、おはよっ」

「おっ、おはよ」

「いよいよ修学旅行だね!わくわくしすぎて、昨日は眠れなかった。」

冴島は眠い目をこすりながらも、楽しみだと話す。

「桐嶋くんもちょっと眠そう。目の下にくま出来てる」

「僕も楽しみにしすぎて眠れなかったんだ」と答えたものの、本当は一週間前から修学旅行が不安で、対策を練っていたから寝れていない。自主研修日の前半は、古典文学の舞台を探訪、茶道体験、後半は恋愛成就の神社を参拝、夜はホテルから望む花火大会だ。


“揺れキュン・手を繋ぐとはどの子と?”

それにイベントバナーのこのメッセージ。

自主研修の中で起こるであろうシチュエーションを予想する。たしか、少女漫画ではグループからわざとはぐれたり、夜は先生たちにバレないように2人で落ち合ったりしていた。



「せっかくの修学旅行なのに眉間にしわ寄せんなよ」と南田が僕にデコピンした。

「ほら、俺らもあの女子たちみたいに恋バナでもしますか〜?笑」

「やだよ」


南田の指すグループの方を見ると、

「誰が好きなの?」「何組?何部?」と恋バナで盛り上がっていた。その中に佐高三玖もいた。普段一人でいるところしか見たこと無かったから友達がいたんだと驚いた。

「佐高さんは好きな人いるの?」

佐高さんが無言で頷くと、きゃーと周りが静かめに声を上げ、「だれ?」「どうして?」と質問合戦だ。

「告白するの?」

その問いに、僕も身構えた。

「いまは、するつもりないかな。だけど──」


「本日は、ご利用くださりありがとうございます。この電車は○○号──」


「だけど」の続きは新幹線のアナウンスに声がかき消されて、聞こえなかった。

アナウンスが終わったあと女子たちの会話は別の話題に変わっていた。

「だけど」佐高は何を考えてるんだ。自主研修で何かするのだろうか。西野へのアプローチ?冴島への牽制?考えるほど分からなくなる。佐高が告白することで起こるであろう西野×冴島ルートを回避させたい僕は、新幹線の外の景色を楽しめなかった。


修学旅行、無事に過ごせますように────


僕は寝不足のせいか、いつの間にか眠っていた。

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僕はもう君に告白しません!!!~モブは主人公になれませんか?~ 槙葉 鹿 @Minazuki_uta

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