Day2 聞いてどうする。知ってどうする。
豊村はこの状況で言い訳は沢山できるはずだ。カツラしてるのは分かる。だけど、メイクしてるのまで薄暗くてはっきりとは見えない。僕は広げられた化粧品を拾って、豊村の傷を隠す為に使った。豊村はそれを口実にすれば良い、「傷を目立たなくするためだった」と。わざわざ、僕にその質問をする必要は無い。豊村は僕を試している。これが豊村のルートのチェックポイントなのだろう。だから、これを選ぶほかないのだ。きっと、選択肢が出ていなくても僕はこう言う。
「『君が聞かれたくないだろうってこと僕は聞かない』絶対に。」
「どうして」
「友達だからって全部さらけ出す必要ないでしょ。僕だって隠したいものあるし、そういうのって普通だろ?」
豊村は黙りこくり微かに肩が揺れていて、泣いてるのかと思ったけれど、吹き出して笑いそうなのを堪えていただけだった。
「・・・・・・なんだよ」
「桐島、腕いたい。力み過ぎだって」と豊村は笑った。「ごめん」と僕はすぐ手を離した。豊村はひと通り笑い終えると「ふー」と息を吐いた。
「桐島って小さいのな」
突拍子もなく、僕の身長をディスった。これでも高校生男子の平均身長はギリ超えている。
「豊村が無駄にでかいんだよ!」
言い返すと豊村はまた笑い出す。「おもしろ、小動物っぽい」なんて言いながら。
何故か、豊村の好感度ゲージもあがっている。
「俺、ゲイだよ。男が恋愛対象。」
──また突拍子もなく。
「女装の趣味はないよ。傷を隠す方法探していて、文化祭で使ったコスメがあったの思い出して、ここに来たんだ。たまたま、近くにカツラあったから付けてみただけ。おれが女子だったらどうだったのかなーって。女装してもこんな背で、肩幅もでかくて、電気消しても女子には見えなかったけどなー」
豊村は僕を無視して語り続ける。誰にも言えずにいた秘密、誰かに聞いて欲しかった事実を僕に告げた。 僕は人に言いふらしたりはしない。だけど、僕はそんなにできた人間じゃないのに、人の秘密を共有できるような責任は持てないよ。
「あーあー。憧れの先輩にも嫌われちゃったよ。俺が女子だったら問題なかったんだろうなー」
好きも嫌いも性別は関係ない。異性であっても叶わない恋がある。
「棚澤先輩はきっと豊村を嫌ってないと思う。」
「なんで、棚澤先輩?」
「在らぬ疑いをかけた棚澤先輩を嫌いになれないけど、好いているだろう緑山先輩のことは嫌いなの不思議だなと思って。きっと豊村は棚澤先輩に特別な何かがあるんだと思った」
「・・・桐島ってよく見てるんだな。」
選択肢が現れるようになってから、よく人を見るようになった。最良の選択肢を選ぶためには、人をよく見ないといけない。
「先輩が言った『お前一人が前に出るな』って、豊村個人として非難してるとは思えないだよな。一人がということは全体をよく見ろってことじゃないかと思って。バレーって集団の競技だし、独りよがりなプレーするなってことじゃないかと。こんな仮説、気休めにもならないかもだけど⋯⋯」
豊村は険しい表情をした。「勝手なこと言ってごめん」と僕は詫びた。素人がわかったようなこと言うんじゃなかった。これはNGの選択だ。
「そう、かも、な。」豊村はゆっくり頷いた。
「俺、自分から独りになってたんだな。桐島に言われるまで気がつかなかった。自分が普通じゃないと塞ぎ込んで、周りを見なかった。これからはちゃんと見ないといけないよな」
吹っ切れたと豊村の声色は明るくなった。
「顔洗ってくる!」と部屋を出ていく豊村の顔が廊下の光で照らされた。
「・・・普通にメイク似合ってるじゃん」
一気に緊張が解けて、座りこんだ。
──パチッ
部屋の明かりがつけられた。
「とよむらぁ?」
「・・・え、桐島くんここで何してるの?」
声の主を見ると、そこに居たのは豊村ではなく冴島だった。
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