Day2 豊村くんの悩み
──Day2───
今日はあいにくの雨で委員会の朝の活動はなかった。
「──ません。でもそれは、他の1年が──」
体育館への渡り廊下から声がする。豊村と高3の先輩が話していた。その中には棚澤先輩もいた。一方的に豊村が叱られているようだった。
「すみませんでした。以後、気をつけます。」
豊村が深く頭を下げたのを見て、先輩たちは「ちゃんとしろよ。次期エースなんだから」と言い捨て去っていった。“次期エース”という言い方は、豊村への期待ではなく、嫌味で言っているようだった。
──ピコンッッ
『(声をかける)』
『(声をかけない)』
ここで声をかけるのは無神経だろうと思い、(声をかけない)を選んだ。
⿴⿻⿸⿴⿻⿸⿴⿻⿸
────昼休み。
体育準備室の前を通りかかると、準備室から物音が聞こえた。電気も付けず、鏡と向き合ってる長髪の人影がいた。バレないように、もっと近くで見ようと近づくと、ダンボール箱に足をひっかけて、転んでしまった。「誰だっ!!」とドスの効いた声がした。
「おい、桐島……」
「豊村、何それ⋯⋯」
豊村がカツラをかぶっていた。暗くてあまり見えなかったけど、目の下にラメが輝いてる気もする。
豊村はカツラを外し、部屋を出ようとした。
「逃げんな」と腕を掴むと「痛い、わかったから離して」と豊村は泣きそうな声で言った。
「掴んでごめん、打撲してるの見えなくて・・・」
「暗いから仕方ないよ。でも、今電気つけて欲しくない。」
「わかった」
暗さに目が慣れてきて、豊村の腕の青い痛々しい打撲も見えた。
「この腕、先輩たちにやられたとか?実は朝、豊村が先輩たちに囲まれてるところ見ちゃって」
「あー。あれも桐島に見られてたのか・・・笑。
これは、練習の時に出来たやつ。僕がどんなに嫌われていても、流石にあの人たちも直接手を出したりしないよ」
「そっか。なんで叱られてたんだ?人一倍練習してるお前が、怒られる理由なんてないじゃん」
「俺が一人そうやって練習してるから、他の1年との団結力が無くなってる、結果的に全体の士気が下がった、他の1年が練習サボりがちになってるのは俺のせいだって。棚澤先輩に『お前一人が前に出るな』っていわれた。技術も努力も先輩に勝てば誰にも文句言われないと本気で思ってたけど、空回りだったんだな」
豊村の努力は僕が想像できるようなものじゃないけれど、その努力が認められていないことに腹が立った。でも、僕は何も言えない。落ち込んでいる豊村にかける言葉も見つからない。
床に転がっていたメイク道具を拾って豊村の腕に塗り広げた。暗くて、色ムラができるけど電気は付けなかった。
「この打撲も、擦り傷も豊村の努力だろ。痛くて、傷が治る前に新しい傷ができて、それでも頑張ってきた努力を馬鹿にするなんて、僕は許せないよ」
「なんで、桐島が怒ってるんだよ〜笑」
「なんでって・・・友達じゃん」
「そう?友達かー。」
豊村が笑いをこらえて、腕が震えてることに気がつき、高校生になってまで小学生のような“友達宣言”してしまったことが恥ずかしく思った。
「じゃあ、友達の桐島は、友達がカツラをかぶって、メイクまでしてることにツッコまないの?」
──ピコンッッッッ
「(────)」
「(────)」
「(────)」
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