【サイドストーリー】特権の有効期限はいつまで?
「トオルってさ、好きな人おらんの?」
「好きな人かー。いるかもしれないし、いないかもしれない」
「なんなのよそれー。」
トオルはこの話題になるとそう言う。そして「俺にはそんなのまだ要らない」って付け加えるまでがいつもの流れ。
トオルは飛び抜けたイケメンって言う訳ではないが、クラスの中心で友達も多く、小さい頃からしてきたサッカーでは、部内でも活躍してるみたいだ。
私がトオルを好きになるきっかけは、今まで特になかった。小さい頃からずっと近くにいて、兄妹のように過ごしてきた私たちは、この関係から変わることもなかったし、変わろうともしなかった。私は、トオルが特別に仲良い男友達としか思ってなかったし、トオルにとっても、私がそういう存在だったらそれで良かった。もし、トオルに彼女が出来たとしても、特別な友達が私であればそれで良かったはずだった。
「ねえ、この主人公さ、西野くんに似てない?」
教室からクラスの女子とトオルを含めた男子たちの声が廊下に響いていた。わたしは教室に入るをやめ、とっさにドアの陰に隠れた。
「俺、そんなイケメンじゃないよー」
「西野くんはイケメンの部類よ?」
女子たちはトオルにかなりグイグイ迫っていた。
「1年でレギュラー入りってだけでも、十分に主人公のステータスだよ」
トオルが1年でレギュラー入りしてるのはみんな知っていた。私は、小さい頃から人一倍努力してきた姿を知っているし、中学の時レギュラー降ろされた時泣いていたことも知っている。だからこそ、トオルのレギュラーに選ばれるまでの努力をモテるための“ステータス”と一括りにされるのは気に食わなかった。だけど、ここで私が出しゃばってもトオルに迷惑をかけるだけ。この複雑な気持ちも私の身勝手なものだ。
「ステータスって…(笑)。俺、その為にサッカーしてねえから。」
「うわーお前カッコつけてやんのー」
「いいねー。期待のルーキー様はー」
ほかの男子もトオルをからかう。一年部員でレギュラー入りしたトオルへの嫉妬もあっただろう。
「そ、俺は余裕なのー。彼女とか心配しなくてもなー」
「西野くんって付き合ってる人いるの?」
トオルに彼女なんて、聞いたことない。
「んー、教えない」
なんでよーという不満そうな女子たちを無視して、トオルは「せっかくの部活休みだからもう帰る。ばーい」と言って、教室から出てきた。
聞き耳を立てることに集中していた私はこの場を離れることが出来ず、トオルとばっちり目が合ってしまった。
「リノ、何してんだ?」
「ごめん、別に盗み聞きするつもりは…」
「別にいいよ。大した話してないし。今帰るなら一緒帰ろうぜ」
「う、うん」
急いで教室でカバンに荷物をまとめ、トオルの横に並んで歩いた。
「トオルって付き合ってる人いるの?」
「あー、さっきの話ね。いないよ」
「嘘ついたんだー(笑)。じゃあ、好きな人は?」
「うーん…。いるかもしれないし、いないかもしれない。」
いるかもしれないんだ…。ちょっとだけ胸がチクリと痛んだ気がした。
「そもそも、付き合う理由ってなんなのか分かんないんだよな」
トオルはそうボヤいた。
「彼氏彼女ってさ、好きな人と特別仲良くできる特権を得た肩書きだと思う。彼女になれば好きな人の心配する権利もやられるじゃん」
「心配する権利か…。じゃあ、俺にはリノの心配する権利ないってことか?」
トオルの視線にドキッとする。
「私とトオルは幼馴染だから“特別”許されるかな?」
「ふーん、幼馴染の特権だな」
“幼馴染の特権”はいつまで有効なのだろうかと、ふとそんな不安が襲った。
「私に彼氏が出来たらどう思う?」
何を言って欲しいから、私はこんなことを言ってしまったのだろうかとすぐ後悔した。
「どう思うかな…。そうなってみないとわかんないや。でも、俺より先に恋人つくんなよー」
「なんでよー」
「だって、寂しいから。」
(寂しいから…)
そうなのか。トオルは私に彼氏できると寂しがってくれるんだ。
「私もまだそんなの要らないから、心配しないでね!」
それからの帰り道はいつもよりゆっくり歩いた。
“幼馴染の特権”を少しでも長く使えるように。
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