やっぱり、告白してもいいですか?

 お互いのシフトない時間を一緒に過ごすことになった。どこに行こうか…。冴島はたこ焼き食べたいって言っていたっけ?あとは、無難に唐揚げとか焼きそばとか?あー、食べてばっかりじゃん。302で先輩たちがやっているお化け屋敷もいいな。冴島、お化け系苦手じゃないかな。文化祭レベルのお化け屋敷なら多分大丈夫だろう。


 文化祭のパンフレットを眺めながら、イメトレに励む。互いのシフトの合間だから1時間もない。短い時間、絶対に無駄にしたくない。


 「ねえ、稜の文化祭に私も行くね」

 「なんで姉ちゃんが来るんだよ」

 「母校だし?」

 「ふーん。僕に構わないでね。どこかで見かけたとしても!!」

 「はいはーい、がんばれよっ」

 姉は僕の背中を強く叩いた。

 ほんと、頑張らなくちゃな。


 ******


 「はははっ、まっさかね〜」

 「そんなに笑うなよぉ…」

 冴島は腹を抱えて笑った。その理由は30分前に遡る。


 ──────────────────

 ──────────


 「桐島くーん!待たせてごめん!!」

 クラスで揃えたTシャツに、普段とは少し違う髪型をした冴島が駆けて来た。


 「はじめどこ行く?」

 「そりゃもう、お化け屋敷から!!」

 冴島の提案に乗って、302教室に行くと順番待ちで僕達の前には3、4組いた。


 「おばけ平気?」

 「僕はホラー系は得意な方じゃないけど、クラス展示レベルなら大丈夫かも」

 「え、桐島くん知らないの?高3のクラス展示って先生たちも手伝うから毎年本気で、今年のお化け屋敷ってかなり怖いらしいよ?それに、ほら……めちゃめちゃ叫び声聞こえるよ?」

 冴島はわざとらしく声をひそめた。確かに叫び声は廊下まで響いている。


 「次の方どうぞ〜」

 典型的な女幽霊の格好をした案内人に注意事項の髪をもらい、軽く目を通して、真っ暗な教室に踏み入れた。


 「ぎゃっ!!!!!」

 生暖かい空気に、風は吹いてないのになる風音。

 「う゛う゛う゛ぅ」

 「ヒイッ」

 突然現れるお化けに驚く声。暗闇に目は慣れてきたけど、突然来るものには対応できない。文化祭レベルとは思えないクオリティ。

 今までの叫び声が僕のものだと信じたくない。

 僕らより先に行った人の叫び声にさえ驚いてしまう。

 「キャッあははっ」

 冴島も叫び声を上げてはいるけど、余裕そうに笑ったりしている。

 冴島は僕の反応を見て笑っている気がする。


 「桐島くんビビりだねー」

 と言った冴島は僕の手を握った。

 「えっ!?」

 「リタイアされたくないからね!」

 暗闇でよかったと思った。変な風音がしててよかったと思った。じゃないと表情で冴島が好きだと絶対にバレてしまうところだった。


 手を繋いだ、と言うよりほぼ引っ張られる感じでゴールまで辿り着いた。あかりが見えると自然に手は離れた。


 「おつかれさまですー。ぜひ、となりの休憩スペースで休んでいってくださいね」

 出迎えの一つ目小僧に扮した三年生の先輩のお陰で現実に引き戻された。


 ───────────────────

 ──────



 「たくさん笑ったらお腹すいちゃったよ。焼きそば買いに行こ!」

 笑い泣きした冴島は目を擦りながら、焼きそばの最後尾に並ぶ。焼きそばを手に入れると、そのまま唐揚げの列に。そのあとはタピオカ……。案外冴島は食べるらしい。

 「はい、桐島くんの分!」

 「え?」

 冴島は僕の分にタピオカミルクティーを奢ってくれた。

 「僕、タピオカ飲んだことないよー。喉に詰めそうだし…」

 「おじいちゃんじゃんwwww」

 再びツボにハマる冴島。今日はよく笑う。


 飲食スペースで買ったものを並べた。

 「こんなに食べ切れるかな〜」と冴島はぼやいた。「自業自得だな〜w」と言うと、

 「お腹すいてる時に並ぶのは危ないねー、でも美味しいよー!!」

 と口にめいいっぱい詰めてハムスターのようになっている冴島を見て、次は僕の方がツボにハマってしまった。


 「なによ〜」

 「ううん、僕も協力する」

 2人とも、ハムスターのようになりながら完食した。

 「もうお腹いっぱいで動けないー、働けないよー」

 とお腹をさすりながら言う。


 「ねえ、せっかくならキャンプファイヤーも一緒に見ようよ」

 「え、ほかの女子と一緒に見なくてもいいの?」

 「みんな、先約があるってー。私もそのつもりだったからね・・・。桐島くんも先約無ければだけど……?」


 「僕も先約には断られてるから・・・」

 「じゃ、決まりね!」


 *****


 とんとん拍子に話が進んでいく。いつの間にか文化祭も終わっていて、キャンプファイヤーの時間。数日前の僕では考えられなかった。隣に冴島がいるなんて。そう言えば、今日は冴島以外の人と話した気がしない。ちょうど僕のシフトの時に豊村が来たから軽く話したけど、西野はあまり見掛けていない。変な選択肢が現れることもなく、平和な一日を過ごせた。


 「終わっちゃうね」

 「うん」

 「あんなに昼間は賑やかだったのに、明日はもう元の日常なんだよね」

 「そうだね」


 明かりを照らしているのは炎の火だけで、薄く頬が赤みがかる冴島は昼間と違う人のようだ。


 「桐島くんの誘い断った子ってどんな子?」

 思いもしなかった問いに即答できない。

 「私はその子に感謝しないとね。お陰で今日は寂しくなかった」

 そんな子なんていない。楽しんでくれていたという安堵と少しの罪悪感とが混じる。




 ────ピッ


 このタイミングなら告白は上手くいような気がした。




 ───ピッ



『(好きです────)』

『(・・・────)』

『(・・・──)』





 ─ピッ


 今ならきっと・・・・・・





 「あ、────(ぇ?)」


 向こうも僕と目が合ったことに気づいた。ちょうど炎を挟んで向こう側。人に囲まれている西野。冴島は気づいている様子はなく、僕の先に続くのことばを待っている。


 ───それでさー、西野が冴島への恋心に気付いたキッカケがお前の告白劇らしいよ─────


 西野はこっちをガン見してる。

 「・・・ぁ」続きの言葉が出てこない。


 告白しても失敗する。だから、告白しないって決めたじゃないか。初めの決意を曲げてどうする。


 「・・・ありがとう。ぼくも寂しくなかった」

 「うん。また、たくさん話そうね」

 たくさん話そう、そう言われただけで十分、今日の頑張りは報われた気がした。

 「うん、またね。じゃ、また明日」

 予定より早く帰ることにした。

 西野はもう見ていないだろうか。まさか告白したと勘違いされていないだろうか。火が消えるまで学校に残るのだろうか。もっと長く隣に居たかったな。

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