僕にもわかるよ?

 文化祭前日のこと────

「桐島くん、お願い!ちょっとついてきて!!」

 冴島に腕を引かれて連れていた先には、生徒会室に西野と女子が二人で話していた。

「これ、どんな状況?」

「あの子、佐向海久って子なんだけど、終礼あとにトオルを呼び出したのね。多分明日の文化祭回る約束しようってしてるんじゃないかって・・・」

「西野は冴島さんと回るんじゃないの?」

「私は・・・約束してないの」

 冴島は寂しそうな表情を浮かべた。

「改めて誘うのって緊張しちゃって出来なくて…。それでも、幼なじみだし、当たり前のように一緒に回ってくれるものだって思ってた。でも、トオルが呼び出されて、もしその子と回ることになってしまったらどうしよう。」

 コソコソ話で中の様子を伺いながら話す。


「もしかすると係が共通なのかも?ほら、西野も文化祭実行委員だし、佐向さんも生徒会役員ならね…」


「文化祭実行委員なら係の話って桐島くんでもいいじゃん」


「僕でもいいなら、西野でもいいじゃん?」


「・・・そう、だけど」


 いつも以上に距離は近いけど、不安で潰れそうな心臓を抑えるように胸に手を当て拳を握る冴島を目の前に、どうすることも出来ない僕は唇を噛む。

「西野と佐向さん話し終わったみたいだ。場所を離れよう」


 図書室まで行って、司書の先生から1番遠いの端の机に座った。


「付き合ってないんだから、トオルが佐向さんと回ることになっても何にも言えないよね・・・。佐向さんは帰国子女だし、男子にもモテるし、トオルも好きかもしれないよね」


「冴島さんは簡単に諦めるの?」


「簡単にって・・・」


「ちゃんと西野と話さないで諦めるのは簡単だよ」


 僕の言葉に冴島は直ぐに言い返さなかった。

 少し考えて、小さな声でボソボソと言った。


「きっと、桐島くんには分かんないよ。」


 好きな人を誘う怖さがわかんないでしょ。断られたらどうしようとか、幼なじみじゃなくなったらどうしようとか。そういうこと、君にはわかんないよ。


 ────と言うようなことを冴島は、泣きそうな掠れた声で呟いた。


「私から相談しておいて何様って感じだよね。ごめんね。」


 ──ピッピッピッピッ 選択肢が表示された。


「・・・あのさ、『僕と一緒に回ってくれないか?』」


「え?」


「ちょうど、僕も誘おうとした人に断られてるんだ!!だから、冴島さんが良ければだけど、僕と一緒に回ってくれると嬉しい」


 僕の精一杯の嘘がバレないように、声が震えるのを笑って誤魔化した。


「誘えなくて落ち込んでいる子を誘う君はつよいね」

 あー失敗した──っと心の中で嘆いた。

 しかし、冴島はくすくすと笑って

「じゃあ、余り者どうし一緒に回ろっか!!」


 冴島は僕達を『余り者』と称したが、結果的に僕は、本命と回れることになったとは言えないな。

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