第3章-8 男の子

 3人で楽しく話していたら、もうすっかり外は暗くなってしまっていた。窓の外を見ると、点々と街灯が淡くともっている。手元の携帯を見ると、時刻は午後7時14分を指していた。

「もうこんな時間か。そろそろ帰るよ。」

「ん、もうお母さんは帰ってきてるの?」

「う~ん、まだ帰ってきてはいないかもね。でも、夜遅くまでお邪魔しているわけにはいかないから。」

「凪もそろそろ帰ろうかな。お母さん心配するかもだし。」

「そっか。じゃあ家出るまで見送ろうかな。」

みんなで部屋から出て階段を降り、僕と小鳥遊さんは玄関で靴を履いた。

「それじゃあ、暗いから気を付けてね。」

と言いながら咲良さんは笑顔で手を振る。

「それじゃ、お邪魔しました。」

「じゃあね~菜緒ちゃん。お邪魔しました~。」

僕と小鳥遊さんは、一緒に家を出た。

「小鳥遊さん、家の方向は?」

と聞くと、彼女は東の方向を指さした。

「お、じゃあ一緒だね。途中まで一緒に帰ろう。」

そう言うと、彼女は微笑みながらうなずいた。


「暗くなるの、早くなってきたね。もうすっかり秋って感じだ。」

「そうだね~。石井君は、秋って好き?」

「実は一番好きなんだ、この季節。風が心地よくて、読書が捗るんだ。」

「読書かぁ~。私、文字だらけの本ってあんまり好きじゃなんだよねぇ~。」

「そう?面白いよ?一回だけでいいから最後まで読んでみなよ。きっとハマるよ。」

「何かおすすめの本ってある?」

僕は少し考えた。今まで誰かにおすすめしたようなことがなかったからか、パッとおすすめの本が出てこなかったからだ。

「そうだ、アリウムっていう本が良いと思うよ。ページ数もそんなに多くないし、ぜひ隙間時間に少しずつでも。」

「アリウムね...メモメモっと。どうもありがと!明日にでも本屋さんで探してみるね。」

本当にこの子はよく笑う。まだ出会って数時間なのに、すでに心を開いているようだった。きっと、誰とでも仲良くなれる能力の持ち主なんだな。でも、それが逆に心配でもあった。

「小鳥遊さんさ...。死後の世界って、信じる?」

「どうしたの急に~。まぁ答えてあげましょう。」

仕方ないなぁ、と言わんばかりの表情をして彼女は言う。

「私は信じるよ。きっと、亡くなったひいおじいちゃんやひいおばあちゃんは、今頃あの世で楽しく暮らしてる。2人でこたつに入って、みかん食べて、テレビ見て...そんな何気ないけど楽しい日常を繰り返してると思うんだよね。ていうか、そうであってほしいっていうか...。」

想像通りだった。でも、彼女の口から意見が聞けて嬉しかった。

「なるほどね、ありがとう。確かに、それが一番幸せかもね。」

そう言うと、彼女は共感が嬉しかったのか、微笑んだ。それも、予想通りだった。

「じゃ、僕の家こっちだから。」

と、十字路に差し掛かった時点で、僕は北の方を指さした。

「おっけ~、それじゃ、バイバイ。」

お互いに手を振って別れを告げ、僕は北へ、彼女はそのまま東の方向へと歩いて行った。10歩ほど北へ歩き、彼女の足音が聞こえなくなったのを確認した後、僕は西へと歩いて行った。


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