第3章-4 男の子

「それからはだれも僕に助けを求めてくることはなかったし、助けてもくれなかった。僕は助けてあげたのに。ひどい話でしょ。」

「・・・」

「死ねばいいのに。」

そんな言葉が自分の口から自然と出てきた。今までは、冗談でも「死ね」なんて言ったことなんてなかったのに、咄嗟に感じたことを口にしてしまっていた。しかし、それが本心であったことは事実だった。

「そいつら、全員死ねばいい。人なんかじゃない。自分に都合がいい時だけ他人を利用して、その恩を忘れるような奴、この世に必要ない。」

「半分は同意かな。僕は死ねばいいとは思わない。」

「どうして?こんなひどい事を見て見ぬふりされたんだよ!?」

「きっと彼らにも彼らなりの理由があったんだよ。もしかしたら、僕を助けることによっていじめられてしまうかもしれないし。もし僕が彼らの立場なら身を挺して助けるよ、でもいじめられたくない気持ちは僕が一番よくわかる。死をもって償わなくても、きっといつか改心する機会は訪れる。」

「改心する機会って?」

男の子は確かににやりと不敵に笑って

「さぁ?」

と言った。その笑みは非常に不気味に感じられた。

「ま、そんなことは置いといて、手伝ってくれてありがと。おかげでいつもより早く片付いたよ。ハンカチは洗って返すね。」

「うん、来週も学校これそうなの?あまり無理しない方がいいよ?」

「君たちのやさしさに触れただけで、ちょっとは楽になったかな。本当にありがとうね。でも間違っても奴らがいるときに僕に話しかけちゃだめだよ?」

「それは私たちが決めるよ。でも、どうせなら三人で立ち向かおう。」

「そっか。本当に君たちは優しいんだね...じゃあ、来週の月曜日は休んでくれないかな。」

「どうして?」

「もし君たちが僕を助けたことが、さっき僕たちのことを見ていた生徒によって、万が一にでも奴らの耳に入ったら君たちもいじめの対象になることは必然だろうね。だから僕が偵察役もかねてあいつらの言動を観察して、君たちに被害が及ばないかどうかを前もって確認しておきたいんだ。」

「もし知れ渡っていたら?」

「本当は嫌だけど、教師と母親に相談することにするよ。そして僕の意思で告発した旨を奴らに伝える。そうすれば君たちが受ける被害は格段に減るだろう。学校もきっと何かしらの対策は取ってくれるに違いない。でも、僕にもその後のことはわからない。逆にもし知れ渡っていなかったら、火曜日からは普通に登校してくれればいいよ。」

「どちみち、君がいじめられ続けるのには変わりないじゃない!そんなのだめだよ!別の方法を考えようよ!今すぐ教師に言いに行くとかさ!」

凪ちゃんは、身振り手振りで必死に男の子に訴えた。

しかし、男の子の決意はそれを押しのけるほど強かった。

「お願いだ、これだけは引き下がれないんだよ。月曜日だけでいいんだ。たった一日だけ僕のお願いを聞いてくれないか?今日出会ったばっかだけど、母さん以外にできた初めての守りたい人なんだ。だから、お願い。どうか頼みごとを聞いてください。」

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