第3章-3 男の子
私たちの考えることは一緒だった。その時ばかりは、そこが男子トイレだったことを忘れていた。
「大丈夫?私たちも片付けるの手伝うよ。」
「バケツをほったらかしていくなんて非常識にもほどがあるよね!」
「(いや、もっとそれ以上に非常識なとこがあると思うが。)」
「ハンカチ使う?」
「・・・いや、悪いよ、遠慮しとく。」
ハンカチを断られたが、凪ちゃんは半ば強制的にハンカチを男の子の体に押し付けて、使って!と少し強く言った。
「ありがと。」
下を向いていてよく見えなかったが、男の子は少し微笑んでいたように思えた。
「ごめんね、今までずっと見て見ぬふりして。」
「なんてことないよ、僕にとってはみんなが巻き込まれないことが一番なんだ。傷ついた自分は、鏡を見なければ見えない。でも他人が傷つくのを見ないようにするのは難しい。」
「悲観的にならないで。君が傷つくのを見たい人はだれもいないよ。」
「本当にそうかな。」
「どういうこと?」
「彼らが僕をいじめている理由はなんだかわかるかい?嫉妬だよ。僕は勉強が得意なんだ。小学生の時からわからない問題なんてほとんどなかった。でも体が弱くてさ、度々入院してたんだ。この高校を選んだのもそれが理由さ。すぐ裏手に病院があるでしょ?あそこは僕が今通っている病院なんだ。家もこのすぐ近くさ。学校と病院が近ければ、いつ学校で発作を起こしてもすぐに病院に搬送される。僕は普通の学校生活が送りたかったから無理言ってこの学校に入れさせてもらったんだ。僕の家庭は母子家庭だから、母さんは、常には家にいない。大体夜の8時くらいに帰ってくるんだ。朝出るのは僕より早いよ。僕よりもうんと疲れて帰ってくる。それでも笑顔で僕を気遣ってくれるから、いじめについて相談しようにもできなかった。母さんが悲しむ姿を見たくないんだ。」
「先生にも言わなかったの?」
「先生に言ったら親にも連絡が行ってしまう。相談先なんて全くないんだ。」
「そっか。でも本当に、勉強が得意なことに対する嫉妬がいじめの発端?」
「実際は少し違うんだけどね。僕はこの高校に入ってから、クラスメイトに勉強を教えることが多かったんだ。男女分け隔てなく教えてたよ。でも、それこそが原因だったんだ。あの五人の中の一人、仮に名前をAとしよう。そのAが気になっていた女の子が、僕に勉強を教えてくれと放課後に僕のもとに来た。もちろん僕はそれに応えたよ。そしたらAは僕に、あいつに手を出すな、手を出したら殺す、と脅してきた。もちろんそんなつもりはなかったし、もしその気があったとしてもめちゃくちゃな言いがかりだ。その時からかな、Aが仲間を引き連れて僕をいじめてきたのは。」
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