第3章-1 男の子

 凪ちゃんの名前を知ってから、私と凪ちゃんでおしゃべりをするのが日課になるまでに三日とかからなかった。もはやおしゃべりにとどまらず、昼休みには一緒にご飯を食べ、放課後にはいろんな場所に二人で行く。いつでも一緒で、まるで姉妹のような関係になった。そんな生活が一か月続いた。あの日凪ちゃんをナンパしていた男にいじめられることもなく、今までどおり、いやそれ以上に平穏な日々を過ごしていた。ただそんな楽しい時間を過ごす中で、頭にこべりついた疑問はどうしても拭えきれなかった。あの日、ナンパ男が扉を拾い上げた時、お札が確かに剥がれかけていたのだ。ただ、今私の目の前に置いてある扉を隅々まで観察しても、お札に剥がれた箇所は見当たらない。ましてや剥がれた形跡さえ見つからない。だから私の考えは証拠不十分で、断定できない、ただの憶測ということ...ん?待てよ。ああいう可能性もあるのか、でもどうやって...?私の中で、一つの突飛な推測が浮かび上がったその瞬間、凪ちゃんからのメッセージが届いた。

「菜緒ちゃーん、勉強進んでる?ちょっと化学の問題でわからないところがあるから教えてほしいんだけど、聞いても良いかな?」

あ、やっば。そういや来週テストだったっけ。どうりで下校途中に運動部の人らが多かったわけだ。扉のことは後にしておいて、とりあえずテスト勉強しないとなぁ。とりあえずメッセージ返そう。

「いいよ、どの問題?」

私は、凪ちゃんから返信が返ってくるまでに、机の引き出しにしまっていた、扉のことについて分かったことを書き尽くしていたルーズリーフに、ある一つの仮説を書いた。続きはテスト終わりにでも考えよう、そう思いルーズリーフを引き出しにしまった。


 凪ちゃんに扉のことについては何も話していない。なぜなら、今は2人の時間がとても楽しいから。凪ちゃんはあの日の帰り道、

「今まで学校ってあんまり好きじゃなかったけど、これからは菜緒ちゃんのおかげで大好きになるような気がする」

と言ってくれた。それが何より嬉しくて、私たちの時間は一生の宝物になるだろうと確信した。どうせなら、楽しいことをして二人の時間を過ごさないと勿体ないと感じた。これはあくまで、私のただの好奇心。

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