第2章-5 小鳥遊 凪

 扉は大きな音を立てて、地面を何度かバウンドした後、私の足元に飛んできた。ぱっと見ではあるが、傷一つない。

「なんだ壊れねぇのかよ、むかつくなぁ。おい、チビ。今度会ったら覚悟しとけよ。ほら、行くぞ」

「あ、ああ」

そう私に言い残して、2人は速足で学校を出て行った。私のリュックをぶん取った方は、とても好戦的らしい。もう一人の方がちょっとそいつにビビっているようにも見えた。

「ごめんね、迷惑かけちゃって。前の席の咲良さんだよね?助けてくれてありがとう」

「いいえ、どういたしまして。可愛い子も大変なんだね」

そう言うと、彼女は頬を赤らめて下を向いた。どうやら照れているらしい。可愛い。少し間をおいて、「ありがと」と小声で言った後、話題をそらすように彼女は言う。

「こんなにめちゃくちゃにされちゃって。本当に凪のせいだよ。ごめんね」

彼女は私のそばに寄ってきて、扉を拾い上げた。

「これ、壊れたりしちゃってないかな。凪はすごくいいと思うよ、これ」

「たまたまおじいちゃんの家にあったの、間違ってリュックに入れたまんまにしちゃったんだ。多分壊れてはないよ」

「そうか、良かったね...いや、良くないよ!こんなんされて、良いわけがないよ!」

想像通りの正義感と反応の可愛さに、思わず私は笑ってしまった。

「そうだね。でも私、明日からいじめられたりしちゃうのかなぁ~。まぁ、私学校嫌いだし、友達もいないから別に良いんだけどねぇ~」

半分冗談、半分本気でそんなことを言うと、彼女は半泣きになっていた。

「良くないよ。良くない!グス、、、いじめられだらわだじがだずげるもん!」

あまりの衝撃に面食らった。泣いていたのは、自分の責任と重くとらえているからなのか、それとも私を哀れんでいるからなのかは分からないが、どちらにせよ、私もこの子を必ず守ってあげよう、と強く心に決めた。

「ありがとね」

高校に入って、こんなに自然と笑顔になったのは初めてだ。そんな自分が久しぶりすぎて、少し恥ずかしい。でも、人付き合いに再び慣れ始めた証拠なのかな。

「ごめんね、こんな時に言うことかわからないけどさ」

「ん?」

「名前、なんていうの?」

「(゚∇゚ ;)エッ!?小鳥遊凪...1年の時も同じクラスなんだけど」

「( ̄△ ̄;)エッ...?」

やっぱり慣れてないみたい。


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