第1章-2 扉

 屋根裏部屋は明かり1つすらない。ポケットに入っていた携帯を取り出し、照明機能を使い、懐中電灯の代わりとして扱う。さっきまでは暗くて見えなかったが、あたりを照らしてみると、そこまで多くのものはないことに気が付いた。外光の入り口になる唯一の窓は、積み上げられた古めかしい本で完全にふさがれていた。他には、部屋の隅っこのほうに段ボールのようなものや、おじいちゃんが趣味で作っていた小さな本棚がいくつかあるだけで、昔見たころより断然すっきりとしている。ほこりすらもほとんどたまっていなかった。

この屋根裏部屋に来るのは実に8年ぶりくらいで、まだ私が幼かったころ、お父さんに怒られたとき、必ずと言っていいほど家を飛び出して、1人になるために逃げ込む秘密基地的な場所だった。自分の気持ちをはっきりと口に出すことが苦手な私を気遣って、おじいちゃんとおばあちゃんは、足腰が悪いにもかかわらず梯子をゆっくり上ってきて、どうしたんだい、と優しく声をかけてくれたものだった。その後は毎回、お父さんが迎えに来て仲直りし、家族みんなでおばあちゃんの温かいご飯を食べていた。また食べたいな、なんて思うと、もう叶わないとわかりきっているから悲しくなってしまう。

「菜緒ー、聞こえてるー?」

「聞こえてるよー、なにーー?」

「その部屋にあるもの全部持ってきてー。持って降りるのが無理そうなら危ないから無理しないでお母さん呼んでねー。梯子の下で受け取るからー」

「わかったーー」

思い出に浸るのはこの辺にして、やることやらないと。まずは細々したものから片付けよう。

比較的小さな段ボールは梯子から離れたところに固められている。大体片手に3つくらいを積んで、梯子を下りて、床に置く。そこまで気の遠くなるような作業ではなかった。なぜなら中に入っているものを見るのが楽しかったからだ。おじいちゃんが集めていたビートルズのレコード、なんだか価値のありそうな器、卒業文集。いろいろ見ていると、その場にいないのにおじいちゃんを見ているような気分になる。小さな段ボールは、残り2個。大きな段ボールや本棚はどうも1人では持って降りれそうにないから先にお母さんを呼んでおこうかな。いや、大きな声を出すのはあまり好きじゃないからあとでいいや。先にこの段ボールを持って降りて、それから直接呼びに行こう。


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