HEAVEN'S DOOR

けいひら

第1章-1 扉

 身近な人が死ぬたびに、悲しくなるのはなぜだろう。答えは明確なのに、それを克服できないでいる。それに立ち会うと必ず、私の存在について深く考え込んでしまう。今がまさにそれだ。葬儀場は昔から苦手で、待ち時間ができると、黒い服に身を包んだ大人たちの目を盗んで、俯きながら外へ出ていく。出入り口の自動ドアを通り、駐車場とは反対側にある何もないスペースで、人がいないことを確認したら思い切り泣き叫ぶ。こんな自分を見られるのが恥ずかしくて、怖くて、なにより嫌だった。私より悲しいはずのお母さんが、お父さんが、いつも平然とした顔をしているのを見て、また悲しくなる。きっと私みたいに隠しているんだ。大人になるって、我慢することなのかな。いつか私にも、それが理解できるようになるのかな。


 あれから一週間がたったある日、みんなの心の整理がついたであろう頃、おじいちゃんの遺品を整理することになった。お父さんは単身赴任中で帰ってこれず、私、お母さん、叔母さん(お母さんの妹)の3人で、おじいちゃんの家に出向いた。

「私は台所の掃除をするから、美香は寝室まわりをお願い。菜緒は屋根裏部屋に行ってきてくれる?2階の畳がある部屋をまっすぐ行ったら天井からひもがぶら下がってるから、それを思いっきり下に引っ張って梯子を出すのよ」

「懐かしいね~。よく美子とふたりで潜入しようとして怒られてたっけ」

「挙句の果てに、ひもを天井にテープで貼り付けられちゃって、椅子使っても届かないようにされちゃってたよね」

「そんなに大事なとこに入っていいの?」

「いいのよ、もう亡くなっちゃったんだから」

「あとで私たちも潜入してやろっか。数十年ごしに」

「美香も悪いねぇ。じゃあ、菜緒、よろしくね」

「うん、わかった」

2階への階段は、玄関のすぐそばにある。リビングから玄関近くまで戻り、階段の1段目に足を出す。途中、階段からギシギシ音が鳴って少し不安に駆られた。でも、そんなことすら今では恋しいくらい懐かしくて、ほんの一瞬、2段先をおじいちゃんとおばあちゃんが上って行ったような気がした。2階に上がり、例の畳の部屋を抜けると、赤いひもが一本、天井からぶら下がっていた。なぜだか少し不気味に感じた。お母さんに言われた通り、そのひもを思い切り下に引っ張った。するとひものついた天井の一部がガバっと開き、梯子が伸びてきた。そして私は上っていった。

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