出会いがしら

「ひ、ひぃいぃぃっ!」

「ぎゃぁああぁあ!」

 公園の中を走り回りながら私は振り返る。

──蜘蛛は追ってきていなかった。

 どうやら、蜘蛛は私だけに固執しているようではないらしい。

 ブランコ前でたむろっていた金髪少年や、ジョギングをしている中年男性などもターゲットにされていた。自分そっくりなドッペルゲンガーをけし掛けられて悲鳴を上げている。

 彼らはみんな抵抗する間もなく、蜘蛛の餌食になって消え去ってしまった。

 あの蜘蛛やドッペルゲンガーに捕まるのは不味い。

 そう思って私は公園から飛び出した──。


 そうして住宅街を走っていたところ、路地で出会い頭に誰かとぶつかりそうになる。

「きゃあっ!?」

「あら、ごめんなさいて」

 私は咄嗟に横に避けて躱す。

 相手も驚いて足を止めた。

「あら? 貴方……」

 そう言って、相手は私の顔をまじまじと見詰めてきた。今時珍しく着物姿のその女の人は、私の印象に強く残っていた──。

 それは、亜久斗君のフリをして、携帯電話でメッセージのやり取りをしていた女の人だ。

 昼間に会ったばかりだが、まだこんなところをウロウロしていたようだ。

「どうしたの? 慌てているようだけど……」

 私の慌てぶりに、女の人は首を傾げている。


──ゴゥオォオゥォウッ!


「ひいっ!」

 公園から、蜘蛛の咆哮が聞こえてきたので私は肩を強張らせた。

 女の人も神妙な顔付きになって頷いた。

「ここを離れた方がいいわね」


 女の人が歩き出したので、私もその後に続いて足を進めた。

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