工作で蜘蛛が生み出すもの
突如現れた異形の存在──蜘蛛は私の全身を見回してきた。
「ば、化け物……」
私は恐怖し、ゆっくりと後退った。
蜘蛛は何を思ったのか、隣に居る私のドッペルゲンガーへと手を伸ばした。そして、その右腕をポキリと真っ二つに折った。
「きゃぁあぁあ!?」
自分と瓜ふたつのドッペルゲンガーの腕が折られたことで、感情移入してしまう。私は思わず、目を塞いだものだ。
腕を折られたというのに、当のドッペルゲンガーは相変わらず涼し気な表情をしている。
蜘蛛が、ドッペルゲンガーから引き千切った右腕をこちらに向かって放り投げてきた。
地面に転がるそれを見て、私はあることに気が付いた。
「に、人形……?」
地面を転がってきたドッペルゲンガーの腕は、表面ばかりで中は空洞であった。
どうやら、作り物のただの人形のようである。
「な、なんだ。そっくりさんじゃなかったのね」
私は謎が解けてホッと胸を撫で下ろしたものである。
人形──?
しかし、それならそれで疑問符が浮かぶ。
「この人形、さっき動いていなかった?」
相変わらず、目の前で静止している人形に、私は視線を送った。腕を折られたドッペルゲンガーが人形であるというならば、これも同じく人形なのだろう。
それなのに、どういう原理で可動していたのかは分からないが、先程までドッペルゲンガーはまるで意思を持っているかのように動いていた。
──ゴォウゴォウゴォーウ!
蜘蛛が何事か奇声を発すと、たくさんある腕をいそいそと動かした。
すると、蜘蛛の隣りに居た片腕のドッペルゲンガーが意思を持ち始める。大きく後ろに反り返ったかと思えば、私に向かって駆けてきた。
「きゃぁぁあああ!」
こちらに迫ってくるドッペルゲンガーが、恐ろしく思えて仕方なかった。私は悲鳴を上げながら、その場で腰を抜かしてしまう。
地面に膝をついている間にも、ドッペルゲンガーはどんどん距離を詰めてくる。
目の前までやってきたドッペルゲンガーは勢いそのままに、私に向かって飛び掛って来た。
私と片腕のドッペルゲンガーの体が衝突する──。
でも、不思議と衝撃はなかった。それどころか、ドッペルゲンガーはまるで吸い込まれでもするかのように、私の中へと消えていった。
「な、なによこれっ!?」
私は驚いて声を上げたものである。
そして、私は自身に起こった不可解な事態に気が付いた。
「……えっ!?」
私の右腕が──肩口から先がなくなっていたのである。もぎ取られたかのような荒い断面に、生々しさを感じた。
幸いなのは、痛みがなく血も流れていなかったことだろう。
お陰で、頭の中は冷静に考えられていた。
先程のドッペルゲンガーと同じ状態になってしまったのである。
──ジョルルル!
蜘蛛は唸り声を上げた。
口を開き、中からねっとりとした体液に包まれた柔らかな物体を吐き出した。
ウネウネと蜘蛛は腕を動かし、その粘液まみれの物体を捏ねていく。コネコネしていき、徐々に物体が形作られていく。
「なんなのよ、あれ……」
気色悪くて、吐き気を催してしまう。
──コネコネ、コネコネ。
ひたすらに、蜘蛛が物体をこねくり回す。
私は、何を見せられているのだろうか──。
今の内にさっさとこの場から逃げ出したい気持ちもあったが、恐怖心と片腕を失ったショックとでその場を動けずにいた。
──コネコネ、コネコネ。
複数の手を忙しなく動かし、やがて蜘蛛が作り上げたのは私そっくりな人形──新たなドッペルゲンガーが生み出された。
ところが、何を思ったのか、蜘蛛は完成させたばかりの、私のドッペルゲンガーから乱暴に右足をもぎ取った。
人形だから、当然血は出ない。
でも、私そっくりの人形が乱暴に扱われて、良い気持がする訳もない。
私が顔を強張らせいると、蜘蛛はこちらに視線を向けてきた。
──ゴォウゴォウッ!
蜘蛛が咆哮を上げたのと同時に、片足のドッペルゲンガーに生気が宿る。
一本足であったが、ドッペルゲンガーは器用にバランスを取りながらピョンピョン私に向かって跳ねてきた。
本能的に、私は悟ったものだ。
──あれに触れてはいけない。
「逃げなきゃ!」
叫ぶより先に、体は動いていた。
公園の出口に向かって走る。
もしも、あのドッペルゲンガーに捕まれば、今度は片足を失くしてしまうかもしれない。そうなれば、逃げることは難しくなる。
両足が健在な内に、私はドッペルゲンガーから距離を取るため全速力で公園の中を走った。
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