救出その後
──ウゥーッ!
──ウゥーッ!!!
けたたましいサイレンの音が耳に入ってきて、私は目を覚した。
気を失っていたが、知らぬ間に河原へと漂着していた。
──ピーポー、ピーポー!
橋の上では救急車がサイレンを鳴らし、どこぞやへと走り去っていく。
──あの男の子は助かっただろうか。
私は上体を起こした。
水に溺れたというのに、不思議と息苦しさは感じられなかった。気を失っていただけで、外傷はない。
私は立ち上がると、橋を目指した。そこに、荷物をすべて置いてきてしまったのである。
橋の上には野次馬や警察官の姿があった。
男の子の安否が気になったので、近くに居た警察官に声を掛けた。
「あの、すみません……」
呼び掛けるが、私の声が耳に入っていないのか、無視をしている。
私は小首を傾げたが、単純に聞こえていないだけだったのだろう。代わりに、私に気が付いた制服警官が声を掛けてきてくれた。
「どうか、なさいました?」
「あの……溺れた男の子は無事でしたか?」
制服警官は顎をシャクる。
視線の先に、大人たちに囲まれて事情聴取を受けている、毛布に包まった男の子が目に入った。
男の子は体をブルブルと震わせてこそいるが、見た目に外傷はないようだ。
助けた男の子が無事であることに私は安堵して、息を漏らしたものだ。
「上流の河原で友人たちと遊んでいたところ、足を滑らせ落ちてしまったそうです。この時期は、川の流れも早いですからね。危ないところでしたよ」
「助かって良かったわ。怖かったでしょうに、頑張ったわね」
男の子が無事であるなら、それで良い。
私は欄干の隅に置いた自分の荷物を取りに行った。でも、置いたはずの場所から、私の荷物はなくなっていた。
「あれっ!? どこに行ったの?」
私は顔を顰めた。鞄の中には携帯電話はおろか財布も入っているのである。
「どうかされましたか?」
再び、制服警官が私に声を掛けてきた。
どうやら、私の叫び声が耳に入ったらしい。
聞かれていたことが何だか恥ずかしかったが、本職の警官に事情を説明することにする。
「此処に荷物を置いていたんですけど、盗られちゃったみたいで……」
「ふむ。置き引きですか……」
制服警官は私の話を聞きながら、メモを取るように上着のポケットからメモ帳とペンを取り出した。
「えっと、じゃあ、盗まれた物の特徴を教えて貰えますか? それから、後、連絡先も教えてもらえますね」
「はい……」
私は鞄の特徴や、名前や住所などの個人情報を警察官に伝えた。
「分かりました。見つかりましたら、こちらからご連絡致しますよ」
「宜しくお願いします」
私はペコリと頭を下げた。
荷物が取られてしまった以上は仕方がない。
私にできることは何もないので、家路につくことにした。
男の子に声を掛けたかったが、なんだか恩着せがましく思えたのでやめておいた。
去り際に、私はふと思った。
──そう言えば、救急車がサイレンを鳴らしながら走り去って行ったけど、いったい誰が乗せられていたのだろう。
そんな疑問を抱いたが、その理由を私が知る由もない。
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