第六夜裏・人形操りの蜘蛛
私の名前は千枝
「ねー、ねー。千枝ぇー。チープに寄って行かなぁい? 可愛いアクセサリー、あったんだー」
友人の春江がストローに口をつけながら、そんな提案をしてきた。
《CHEAP》というのは商店街にある雑貨屋さんで、色々なキャラクターもののアクセサリーが置いてあるお店だ。
「うん。じゃあ次は、そこに行きましょうか」
私は頷いて、春江のお誘いを受けることにする。
ここは商店街の駅口にある喫茶店——。
お泥沼広場公園で亜久斗君の代弁者の女性と合った後、突然春江から呼び出しを食らった。
それまで、塞ぎ込んで鬱々としていた私を元気付けようと誘ってくれたらしい。たまたま気分も晴れやかだったので、春江のお誘いを受けることにした。
──彼は必ず、貴方の前に生きて返ってくるから。それまで待っていてあげて。
見ず知らずの女性から言われた一言で、何故だか私は元気付けられた。
あの場では、不思議と亜久斗君の存在を身近に感じて心が和んでいた。
「みんな心配してるんだからねー。柳城も、あんなことになっちゃったし……」
春江はハッとなり、慌てて自身の口を噤んだ。
「あっ、ごめん……」
「うーうん。大丈夫だから。ありがとう」
亜久斗君のことで頭がいっぱいで気付かなかったけど、どうやら私もみんなに心配と迷惑を掛けていたようである。
友人の春江に気を使わせしまっていることに申し訳なさを感じてしまう。
「ま、まぁ……元気に行こうよ!」
私が暗い表情になったことに気が付き、春江がおどけて見せる。
私は苦笑いを浮かべた。
「そーだね!」
幼馴染みで彼氏の柳城亜久斗君が、数日前にバス事故で生命を落としてしまった。そのショックは大きく、私は学校を休んでいた。
お父さんの誘いで警察署に行き、亜久斗君の遺体と対面した時には涙が溢れた。
──でも、それから数日が経ち、段々と私の気持ちも整理が付いてきた。それに──。
摩訶不思議な話ではあるが、あの女性のお陰で、本当に亜久斗君が生き返って、再び現れるんじゃないか──。そんな期待に胸が膨らんだ。
勿論、そんな不思議なことが、起こるわけはないのだが──。
「よーし! じゃあ、チープに行こうよ。チープ」
「はいはい。行きましょう」
春江が急かすので、私はまだコップに半分近くも入っていたジュースを一気に飲み干した。
私と春江は席を立ち、商店街でショッピングを楽しむことにした。
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