死神たちへの反撃
「やめて下さい! 離してっ!」
美紀子の悲痛な叫びが、辺りに響き渡る。
美紀子は必死に、足にしがみついている兎を引き離そうと、身を捩っていた。それでも、屈強な兎の腕にガッチリと掴まれてビクともしない。
一向に外れる気配はなかった。
「うわぁあぁ!」
また、その横では義史が長身の狐に追われて逃げ惑っていた。義史はサーベルの攻撃が届かないように走って狐から離れていた。
しかし、狐をアシストするかの如く、遠くで牛が地響きを起こす。
義史は堪らず、その場にバランスを崩して倒れてしまう。
──状況は最悪であった。
窮地に追い込まれている。
そんな戦場に、僕と野浦は舞い戻ってきた。
「大丈夫ですか!?」
僕が叫ぶと、義史は驚いたように顔を向けてきた。
僕が彼らを見捨てて、一人で逃げ出したとでも思ったのだろう。
「あれ? 逃げたんじゃ……」
「逃げたりなんかするもんか!」
冷ややかな目を向けてきた義史に、僕は言葉を返した。
「美紀子さん。そのままじっとしてください」
掴まれて身動きの取れない美紀子に僕は叫ぶ。
「え、ええ……」
美紀子はわけも分からず目を瞬いている。
野浦に僕は、目配せをした。
「本当に、上手くいくのか?」
「ええ、多分……」
不安げな野浦に、僕は頷いてみせた。
ここへ戻ってくるまでの間に、野浦には作戦を伝えている。それが上手くいけば、もしかしたら死神を撃退できるかもしれない。
野浦は覚悟を決めたようだ。
走り出し、美紀子へと向かった。
野浦が手を伸ばす──。触れたのは、兎の顔だ。
野浦から発せられた白色の光──美紀子の黒色のオーラ──それらが、中間に居る兎の体へと流れ込んでいく。
光とオーラが混じり合った時──。
「グゴォオオォッ!」
兎の口から悲鳴が上がる。
あんなにもガッチリと掴んでいた手を離し、兎はピクピクと痙攣を起こす。
その間に、美紀子は兎の側を離れる。
「美紀子っ!」
自由になった美紀子に駆け寄った義史が、その体を抱き締めた。
「無事で良かったぁ!」
「ええ。大丈夫よ」
「良かった……良かった……」
安堵の声を漏らす義史の好意を、美紀子もすんなりと受け入れた。体を預け、美紀子も嬉しそうに目を閉じた。
野浦は自身から発せられた白色の光のパワーに目を丸くしている。彼の視界の先には、ガックリと項垂れる兎の姿が写っていた。
老人の死神と同様、兎も白目を向いて意識を失っている。
「こりゃあ、凄いな……」
「どうやら、上手くいったみたいですね」
感嘆の声を漏らす野浦に、僕は頷いてみせた。
「光とオーラが混じり合えば、霊体を消滅させる程の凄まじいパワーが生じます。そのパワーを逆に死神に対して使えないかと思ったんですが……。どうやら、当たりだったようです」
偶然に老人の死神を気絶させられたことから、僕はその発想に至ったのだ。
三人とも黒色のオーラを纏っているので、空いた野浦に白色の光を回収してもらえば自在にその力を使えるようになると思った。
「これで、この手法が死神たちに有用であることが分かりました。……さぁ、この能力を上手く使って、死神たちに反撃といきましょう」
「おっしゃー!」
これまで散々逃げに徹していたが、反撃できると分かって野浦も闘志を燃やし始める。
目の前にまだ恐ろしい長身の狐が居たが、僕は恐怖を感じなくなっていた。
「野浦さん! そっちからお願いします。逃げ道を塞ぎましょう!」
「任せとけ!」
僕と野浦は長身の狐を前後から挟み撃ちにした。
やがて、周囲に長身の狐の断末魔の叫びが響き渡ることとなるのであった──。
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