光とオーラの使い道
恐らく、僕一人であればこの状況から逃れることは簡単であっただろう。しかし、この場に居る全員を、これ以上の犠牲なく助けるというのは僕の力では難しいように思えた。
なんせ、こちらには死神への対抗手段がない。特殊な能力もなければ武器もない。
僕らにできることと言えば、せいぜい生者に憑依して逃げ惑うことくらいである。
「は……離してくださいっ!」
美紀子が右足を掴んだ兎の手を振り解こうと、足をバタバタ動かしている。それでも兎は、その足から手を離すつもりはないらしい。
美紀子がいくら激しく足を動かそうとも、ガッチリと掴んだ足を離そうとはしない。
ただ、兎は他の死神のサポート的役割なだけらしい。美紀子の足を掴んではいるが、それ以上に何かをする様子はない。
単体であればたいしたことのない相手であるが、死神が集まってきたこの状況下ではかなり厄介な存在である。
──ワシャワシャ!
ゴニョゴニョとした呟き声と共に、老人の死神まで姿を現して参戦する。
老人の残像が、徐々にこちらに近付いてくる。次に僕の正面に、老人の残像は湧いた。
老人はそこで静止しているが、実際には見えないところで本体が移動してきているはずである。
「ワジャワジャ。」
耳を澄ませると、近くで老人の囁く声が聞こえる。
僕は予測して後ろに跳ぶことで、目に見えぬ老人からの攻撃を回避した。
──しかし、それは迂闊であった。
跳んだ方向が悪かった──。
ちょうど通行人が歩いているところであった。
しかも、それはただの人間ではない。体から白色の光を放つ──死神の能力を纏った特殊な人間だ。
「あっ……」
頭の中が真っ白になった。
中空で、今更方向転換などできる訳もなく、僕はその通行人に向かっていった。
──黒色のオーラを放つ者が、白色の光を放つ者に触れれば消滅してしまう。五十嵐と老人の姿が思い返された。
「ワジャワジャ……!?」
──ところが、僕が通行人にぶつかることはなかった。直前で、見えない何かに当たった。
「え……あ、あれっ?」
その空間には何もなかった。
どうやら僕が跳んだ先に老人の死神が居たらしい。予測していたところより、随分と違う位置に居た。
お陰で老人が緩和材となってくれたようだ。
でも、老人の死神も僕のことを支え切れなかったようだ。勢いのまま、僕らは通行人に向かって倒れた。
「ワァァジャァアアァアアッ!」
すると、耳を劈くような大きな叫び声が辺りに響き渡った。
地面に倒れた僕の体は消滅することなく──また、先程まで体から発せられていた黒色のオーラも消えていた。
「これは……?」
通行人の体からも、白色の発光はなくなっている。
老人の死神の残像が現れる──。
地面に横たわり、白目を向いていた。
何が起こったのか分からず、僕は小首を傾げた。
次に現れた老人の残像もまた同様に、その場に倒れたままであった。
どうやら、老人は気を失っているらしい。
これらの状況を繋ぎ合わせることで、活路を見出だすことができた。これは、偶然生まれたことであるが、非力な僕らが唯一死神に対抗できる手段を見付けることができた。
──試してみる価値はありそうだ。
僕は野浦に向かって叫んだ。
「野浦さん、付いてきて下さい!」
「え、あっ……おい!?」
野浦が怪訝な表情になる。突然に駆け出した僕は、他二人を置き去りにして逃げ出したかのように見られたようだ。
それだって構わない。
「手伝って下さい!」
僕が声を上げると、仕方無しに野浦は付いてきてくれた。
曲がり角を曲がった先で、僕はお目当てのモノを発見することができた。
「居たっ!」
買い物袋を引っ提げた女性がこちらに向かって歩いてきている。その体は白く輝いていた。
「おいおい、何だってんだよ?」
「あの人に触れて下さい」
後を追ってきた野浦に、僕は女性を指し示す。
「は、はぁ……?」
「いいから、早く!」
困惑していた野浦だが、僕に急かされたのでわけも分からず女性の体に触れた。
すると、女性を覆っていた白色の光が野浦の体にも移っていく。
「な、何だ、こりゃあっ!?」
──準備は整った。
僕は野浦に向かって頷く。
「さぁ、野浦さん。死神たちに、反撃といきましょう!」
僕はニンマリと笑うと、踵を返して戦場へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます