日の出の時刻

「無事で何よりだ」

 僕は片手を失った野浦刑事と再会していた。

 野浦は遠くへ逃げることはせず、生者を乗り継いで憑依していくことで難を逃れたらしい。

「どうせ、一人で逃げたところで、死神にやられて終わるだけだろうからな。また会えて嬉しいよ」

 どうやら、野浦は僕のことを頼りにしてくれているようだ。

「……ところで、五十嵐の奴は?」

「やられてしまいました」

 僕が答えると、野浦は「そうか……」と悲しそうに俯いた。

「犯罪を繰り返すしょうもない奴だったが……。根は良い奴なんで、更生をさせてやりたかったんだが……。まぁ、これまでの行いの、因果応報って奴かもしれねぇ」

 五十嵐が罪を犯すたびに担当して手錠をかけてきたのが野浦らしい。長い付き合いがあり、刑事と犯罪者という立場であったが思い入れもあったのだろう。

「俺達もどうにか生き残らねぇとな。あいつの分まで、せいぜい長生きしてやるか」

 野浦は顔を上げて、フッと息を吐いた。

──生き残る、か。

 ふと僕は思い出して、口を開いた。

「……そういえば、日の出って何時くらいですかね?」

 野浦が上着の袖を捲って、腕に嵌めた時計を見詰める。

「さぁな……。今は四時だが……」

 日の出の時刻は季節によって変わる。夏になれば日の出も早くなり、反対に冬になれば遅くなるものである。

「五時だと過程しても、後一時間くらいだろうな」

 野浦の言葉に、僕の心臓は高鳴ったものだ。

 ようやく終わりが見えてきた。


 しばらく死神たちと出会していないので、僕の気も緩んでいた。このまま何事もなく、朝を迎えたいものである。

 そんな淡い期待を抱いたものだが、死神たちはそう甘くはなかった──。

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