五十嵐の光

 これで、この商店街で見掛けた死神は三体──。

 しかし、商店街を進んでいた僕はさらなる死神と遭遇することになる。

 何やら不穏な気配を感じた僕は建物の陰に隠れて、身を隠しながら通りの様子を伺った。

──ズシン、ズシン。

 足音を踏み鳴らしながら歩いていたのは、新たな死神であった──。

 恰幅の良い人間の恵体に、兎の頭がちょこんと乗っかっていた。

「まだ居るのかよ……」

 新たな死神の登場に、僕はうんざりしてしまう。

 兎は物陰に隠れ、生者に憑依していた僕の存在には気が付かず、そのまま横を通り過ぎて行った。

 兎の姿が見えなくなると、物陰から表に出た。

──グォオオォォ!

 ホッとしたのも束の間。

──今度は、牛の死神の嫌がらせ。

「うわぁっと!?」

 僕は強制的に憑依状態を解かされ、酔っ払いの体から飛び出した。勢いのまま地面を転げてしまう。


「あっ、お前……!?」

 そんな僕に、声を掛ける者があった。

 視線を向けると、牛に追われて走り去って行った五十嵐の姿が目に入る。

「あっ、五十嵐さんじゃないですか! 無事だったんですね!」

 五十嵐は五体満足で牛から逃げ切ったようだ。無傷でそこに立っている五十嵐の姿を見て、僕は嬉しく思ったものだ。

 ところが、五十嵐の方は、そう思わなかったらしい。僕を睨み付けるなり、怒鳴り散らしてきた。

「お前ら、俺を見捨てやがったな! 自分たちが助かる為に、俺のことを囮にしやがって! 絶対に、許さねぇからなっ!」

 五十嵐からはそういう構図に見えたらしい。

 結果的に、五十嵐が牛を引き付けてくれたお陰で僕らは逃げられたのだが。まぁ、そう捉えられても仕方がない。

 五十嵐には声を出したことで少しは鬱憤が晴れたようだ。

「ふん」と、一つ鼻を鳴らすと首を傾げた。

「野浦のとっつぁんはどうしちまったんだぁ? まさか、あいつのことまで置き去りにして、自分だけ逃げてきたって訳かい?」

「まさか!」

 負傷した野浦を逃がすために死神を引き付けたつもりだったが、その後、野浦がどうなったのか分からない。

 返答に困り、口篭ってしまう。

 ふと、顔を上げて改めて五十嵐に視線を向けたところ、彼の体のとある変化に気が付いた。

「……あれ?」

 薄っすらとではあるが、五十嵐の体は白く発光していた。目を凝らして見なければ分からない程の光量であるが、確かに五十嵐の皮膚は薄闇の中で光り輝いていた。

「その体……どうしたんですか?」

 僕が指差すと、五十嵐は「ああ」と頷いた。

「女子校生の体を乗っ取ってから、どうも変でなぁ。ずっと、こんな風なんだ。何やら、体が引っ張られるような感覚もあるし、不気味なもんだぜ」

 五十嵐にも理由は分からないらしい。


 白く発光する肉体──。

 引っ張られるような感覚──。


──いったい、どういうことなのだろう。

 いずれにせよ、再び合流することができたので、僕と五十嵐は行動を共にすることにした。

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