管理者室の便利ツール
メイドに言われた通りに、僕は長い廊下を歩いて進んだ。突き当りを左に曲がって、手前から三番目にある部屋のドアノブに手を掛ける。
──ガチャガチャ!
鍵が掛かっていて開かない。
屋敷全体を管理するような重要な部屋であるから、不用心に開放はされていないようだ。
僕は上着のポケットの中に手を入れた。
流石は家主と言ったところで、園田のポケットには鍵束が入っていた。
一本一本、鍵を鍵穴に挿していき、合致するものを探す。
憑依状態を解けば、鍵などなくとも部屋の中に入れるのだが、その間に意識を取り戻した園田が何を仕出かすか分かったものではない。
せめて、自然に憑依状態が解けるまでは園田の体を保護しようと、僕はそのままの体で部屋に入れる方法を模索した。
ようやく鍵が見付かって、扉が開く。
メイドが管理者室といっていたが、中はモニター室になっていた。いくつものモニターには、屋敷の中に設置されている監視カメラの映像がリアルタイムで流れている。
中央のモニターには立体的な屋敷の地図が表示されており、どのモニターが地図上のどの位置に設置してあるのか、線が伸びて分かりやすいようにレイアウトされていた。
僕は機器を操作して、モニターの映像を切り替えていった。
──そして、ある部屋の映像にひかりの姿を捉えた。
屋敷の東館二階にある奥の部屋——。そこでひかりは椅子に座らされ、縄で縛られていた。側には梅宮と、片腕を失った米飯の姿もある。
ひかりは意識を失っているようで、俯いたままピクリとも動かない。
「……待っていろよ」
今すぐにでも部屋を飛び出してひかりの元へ駆け付けたかったが、一旦はそうした衝動を抑えて冷静になる。頭に血を上らせてこのまま無計画に立ち向かっても、返り討ちにあうだけである。
相手は幽霊二人なのだから、生者のひかりを救うにも準備が必要だ。
僕はモニターを操作して屋敷の中を見回した。そして、南館一階の廊下に目当ての品物を見発見する。
「これは……ツイているな!」
僕は胸を高鳴らせながら、管理者室からそこまでのルートを地図上で確認した。
準備を整えると、今度こそ管理者室を飛び出して行動に移った。
先ずは、向かうは南館一階の廊下である。
惨劇が繰り広げられた廊下に、人の姿はなかった。妖刀で切り捨てられた人々は、手当ての為にどこぞやへ運ばれていったらしい。
相変わらず床や壁には血が生々しく残っていた。
そこで、僕は床に落ちていた目当ての品物を手に取る。
──米飯が持っていた妖刀である。
猪の死神に襲われた際に、米飯の腕ごと吹き飛んでそのまま放置されたらしい。米飯もどうやら、片腕を失ったショックで妖刀を回収するにまで思考が至らなかったようである。
或いは、まだ死神がこの場をうろついていて、慌てて退散したのかもしれない。
いずれにしろ、逆に護身用の武器としてこちらが利用できるので、残しておいてもらえたのは有難い。
──コイツは霊体を切れる刀なんだ。
米飯の言葉が頭の中に思い返される。いざとなれば、これを使って二人の手からひかりを取り返すことができる。
僕は刀をしっかりと握り締め、ひかりを救出すべく東館を目指した。
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