暗闇で階段探し

 第三会議室の壁を抜け、廊下へと出た。

 相変わらず、ここは部屋の中とは違って真っ暗だ。

 試しに電灯のスイッチを押してみたが、電球が抜き取られているようで何の反応もなかった。

 そうなると——現在地は地下三階──地上に出るには暗闇の中を、三つも階段を探して上がらなければならない。

 幽霊なのだから浮遊して一気に地上まで行ければ良いのだが、そこは重力の影響を受けているようで、跳んでも体は持ち上がらないし天井も高くて手を伸ばしても届かない。

 そもそも、その対策もされているようで、壁を伝って登れそうな場所はないし踏み台にできそうな家具も置かれてはいない。

 正攻法で階段を上がっていくしか、地上に出られる手立てはないようだ。


 僕は来た時のつたない記憶を頼りに、頭の中に地図を思い描きながら進んだ。安易に壁抜けをすると方向を見失う恐れもあったので、時間は掛かるが慎重に手探りで進むことにした。

 地下二階に上がる階段は、あっさりと見つけることができた。


──アァァアァアァァアアッ!


 女の人の悲鳴のような叫び声が上階から聞こえてくる。徐々にこちらに近づいて来ているようだ。まだ距離はあるが、いずれは鉢合はちあわせることになるだろう——。

 そうなる前に一気に地上に出たいところではあったが、不親切なことに階段は一階ごとに途切れている。今度は地下一階へと上がる階段を、この地下二階フロアー内で探さねばならない。緊急事態だというのに、悪意を感じる建物の構造に僕は苛立ったものだ。


 僕はまた壁を伝いながら廊下を進んだ——。

 地下三階とは違って、間取りの記憶は薄い。何度も行き止まりになり、道を引き返す羽目になってしまう。


──アァァアァアァァアアッ!


 次に女の人の悲鳴が聞こえた時、僕は背筋に冷たいものを感じた。

 先程まで上階から聞こえていたその声が、正面の壁越しに聞こえてきた。

「いる、のか……?」

 この階にあの悲鳴の主が──死神が居る。

 僕が迷っている間に死神は、目の前にある壁の向こう側にまで迫っていた。

「どうしよう……」

 そこから離れたい気持ちもあったが、動けば物音で勘付かれてしまうかもしれない。

 動けずにいると、再び死神は悲鳴を上げた。


──アァアァァア!


 間違いない。壁一枚を隔てた向こうに、ソレが居る気配を感じた。

「……来るっ!」

 僕は身構えた。

 壁からぬっと巨大な突起物が突き出してきた。先端が鋭くとがったそれは、まるで鳥類のくちばしのように見えた。

──今だ!

 その大きな嘴が壁を抜けてきた瞬間、入れ違いに僕も壁をすり抜けた。

 寸分たがわずにお互いがすれ違ったので、僕はその巨大な死神の全身を視界に捉えることはできなかった。でも、どこか翼を生やした大きな鳥のように見えた。

 死神の方も、僕の存在には気が付いていないようだ。


 この隙にと、僕は死神との距離を取るべく暗闇の中を走り出した。


──アァアァァア!


 背後で再び死神の悲鳴が聞こえたが、僕は振り返らずに進んだ。

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