その亡骸は、目の前に居る貴方

 バスの中にはたくさんの遺体があった。

 僕らは引き上げた遺体を、弔いの意味も込めて、車内で見付けた上着やタオルなどで包んで丁寧に並べた。

 本田がしゃがみ込み、故人の顔をまじまじと見詰める。

「確かに、これは木下さんですね。貴方にそっくりだ」

「ちっ!」

 金髪の男が舌打ちをする。どうやら金髪の男の名前が木下というようだ。

 本田が確認したことで、その遺体が木下にそっくりであることが認められた。

「それに、明美さんに……こっちは、楠木君ですね」

「明美さん? 楠木君?」

「ええ。バスに乗っていたツアーの乗客ですよ」

 本田の顔はみるみる青褪めていく。

「まさか、事故で死人まで出してしまうだなんて……。会社に何と報告すれば良いのか……」

「馬鹿なことを言ってんじゃねぇよ!」

 それまで傍観していた木下が横から声を上げる。

「確かにあの場所には二十六人、全員居たじゃねぇか。怪我もしてなかったし、みんな元気だっただろう? 俺だってそうだぜ。勝手に人のことを殺すんじゃねぇ!」

 木下の言葉には同意する部分もあった。

 僕自身も人数を数えてはみたが、確かにあの場には二十六名全員が居た。

——だとしたら、このバスの中から見付けた遺体たちはどこから来たというのだ。

「うーん……。よく分かりませんけど、一度、皆さんのところに戻ってみませんか? もしかしたら、無線が通じているかもしれませんし、日が暮れる前に戻っておいた方が良いでしょう」

「あ、ああ……」

 本田の言葉に木下も異論はないようだ。


 こうして、僕らはこの場で見たことを報告するために、一度みんなのところに戻ることにした。

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