僕だけが見たモノ

 バスの探索を終えてみんなのところに戻った僕の全身は、砂埃や付着した血で汚れていた。

「だ、大丈夫ですか?」

 僕の衣服についた大量の血を見て、本田の顔が青褪めている。怪我でもしたかと思ったのだろう。

「大丈夫ですよ」

「中はどうだったんだ?」

 神妙な面持ちの金髪の男が、腕を組みながら尋ねてくる。

「酷い有り様でしたよ。他にも、数人の遺体を発見しました」

 僕の報告に、みんなの顔が曇った。

「おじいさんと女の人、それから……」と、バスの車内で見付けたものを口にしながら、ふと僕は言葉を切った。何とも言い辛いことがある。

——しかし、言わない訳にもいかない。

「……あなた」

 金髪の男を僕は指差した。

「は……はあ?」

 不意をつかれて、金髪の男がぽかんと口を開けて呆けた。

「よく分かりませんけど、確かにあれはこの人でしたよ。もしも、双子の兄弟でも居たなら話は別かもしれませんけど」

「はぁ? そんなもの、居るわけねーだろ。ふざけたことを言ってんじゃねぇ」

 金髪が眉間に皺を寄せて僕の襟首を掴んできた。

——まぁ、何となくこう反応するであろうことは予測が付いていた。

 僕はフゥと息を吐いて気持ちを静めると、金髪に反論する。

「それなら貴方も、実際にバスの中に入って、自分の目で見てきたらいい。そうすれば、僕の話が真実か嘘か、分かると思いますよ」

「なんだと……」

 金髪は反論してこず、歯噛みをして僕から手を離した。

──情けない話である。

 威勢だけは良いが、結局は死体だらけのバスの中を自分では見ようともしない。

——まぁ、情けないのはこの人くらいのものだろう。

「そ、そうですね。車内の様子も知りたいですし、勇気を出して見に行ってみましょうか」

 声を震わせつつ本田が頷く。


 ニット帽とサングラスも後に続いて、勇敢な僕らでバスから荷物や遺体を取り出すことにした。

 ボディコン姉さんも体を震わしつつも、荷物を運び出す手伝いをしてくれた。

「ちっ!」

 ただ、金髪の男だけは文句を垂れて舌打ちをするばかりで、何ら役には立たなかった。


「これは……」

 バスの床に落ちていたそれを僕は手にした。

——携帯電話だ。

 電源が入り、暗闇の中で液晶の画面が点灯する。セキュリティーを突破できたことから、どうやらこれは僕のモノのようだ。

 上着のポケットに入れていたはずだが、事故の衝撃で吹き飛んだのだろう。

 しかし、それ以外に僕の荷物は見付からなかった。事故の衝撃で車外へと弾き出されたのかもしれない。

 今後のために、せめて財布くらいは見付けておきたかったが、ないのだから仕方がない。

 僕は落胆して溜め息を吐きながら、携帯電話をポケットの中に入れた。

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