荷物に紛れた首の主

 小さな残骸から大きな瓦礫まで、バスは四散してあちこちにちらばっていた。

 先ずは、車外に飛び散ったスーツケースやリュックサックなど、目についたものを拾って一か所に集めていく。


 一通り荷物を集めたところで、次は倒れたバスの車体へと向かった。

「あったぞ。こっちだ!」

 金髪が車体の上に乗り、ガラスの割れた窓に手を入れて荷物を取り出していく。

「ん、何だこれ。重いな……」

 金髪がリュックサックを掴むが、何かに引っ掛かって手間取っている。ニット帽とサングラスも車体に上がって、それを手伝った。

「せーのっ!」

——ブチブチブチッ!

 異様な音がした。

 力任せにリュックサックを取り出すことには成功したようだ。

——が。

「きゃぁああぁあああ!」

 ボディコン姉さんが悲鳴を上げる。僕も、金髪たちが車内から取り出したものをみて思わず絶句してしまう。

「あん? 何だ?」

 当の金髪やニット帽などは、そのことに気が付いていない。

「そ……それ……」

 僕は指を差して金髪たちに知らせてやった。


 リュックサックにくっついていたのは——生首だった。

 白目を向いたその生首はまだ真新しいもののようで、患部から血が滴っていた。


「うぎゃあああ!」

 金髪は悲鳴を上げてリュックを投げ捨てた。

 何故か、こちらに向かって投げてきたので、僕らもパニックを起こしてしまう。

「きゃあぁあ!」

「うおおお!」

 僕の足元にリュックサックが落下し、生首が地面を転がる。僕は恐怖で動くことができなかった。既に事切れているそれと、僕は目が合う。

「……あれ?」

 その瞬間、僕の思考は停止したものだ。

「……こ、この人、何処かで見た事があるような……」

「何を言ってんだよ!?」

 金髪が小馬鹿にしたように鼻で笑う。

 本田は恐る恐る近付いた。そして、まじまじとその顔を見詰める。

「え、えーっと……。確かに。これは梅宮さん、ですね……」

 今にも吐きそうな本田が、嗚咽を漏らしながら息も絶え絶え言った。

「梅宮だぁ?」

 金髪が本田に尋ねる。横柄な態度とは裏腹に、さっきから一向にその生首に視線を向けようとはしない。

「あの……ご老人が居たのを覚えていますか? そのお連れの方ですね」

 本田に言われて、僕は思い返してみた。

 確かに、先程見たおじいさんと一緒に居たおばあさんの顔に、その生首はそっくりだ。かなり損傷してあちこち皮膚が抉れてはいるが、間違いはないだろう。

「じゃ、じゃあ……あのお婆さんはなんだっていうのよ?」

 ボディコン姉さんが体をブルブルと震わせながら尋ねる。

「確かにそうだ」

 金髪も同意して声を上げた。

「ばあさんは、あそこに居たじゃねぇか。まさか、幽霊だとでも言うのか?」

「さ、さぁ……?」

 本田も似ているからそう判断しただけで、尋ねられても返答に困った様子だ。

——幽霊?

 いや、確かにおばあさんは健在であった。体は透けていなかったし、二本の足だってしっかりと生えていた。

 とても、あれが幽霊という風には見えなかったので、僕らは困惑したものだ。


「他には、何もないんですか?」

 僕が尋ねると、金髪は顔を背けて身震いする。

「死体があるような気持ち悪いところを、これ以上、探せるかっての!」

 見た目の割には、どうやら臆病な性格のようだ。

「はぁ……」

 僕は頭を掻くと溜め息を吐いた。仕方なしに、バスに向かって歩き出す。

 バスに上り、窓から体を車内へと滑り込ませた。

「あっ、ちょっと」

 本田が制止してきたが、僕はそれを無視した。ならば、代りに調べてくれるのかと思えば、きっとそうはしてくれないだろう。

 だから気弱な大人たちは置いといて、僕は車内の捜索に当たることにした。当然、異論はないようで、バスの中に入って行く僕を連れ戻そうとする人は誰もいなかった。

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