#6 テロ実行日特定、怜子の決意

 こうして極秘の情報収集を開始したはずの二人だったが、意気込むまでもなく、検査部隊の動きについては簡単に調べがついた。

 そもそも、レールガン検査自体は隠すような事でもなく、むしろスムーズな進行のために、砲術部から各部への積極的な情報提供が行われていたのだった。

 基地内のそこいら中に、コピーされた分厚い資料が山積みになっていた。スパイ的な活動など、何ら必要なかった。


 部隊内閲覧ということで、回覧板付きで鹿賀の手元に回ってきた検査実施要領によれば、レールガン本体の実地検査が行われるのは検査二日目の午後、つまり五日後ということだった。

 検査部隊の宿泊場所としては、このエリアで最高級のホテルである、老舗の「ホテル河久」が確保されていた。完全に、VIP級の待遇である。それだけの権限を持った部隊なのだ。


「もし何かやるとしたら、この実地検査の時だな。間違いない」

 と大南少尉は日程表を指さす。

「この時なら、レールガンを触り放題だ。連中の持ってる権限なら、検査上の必要性があるとか何とか言って基地の人間を排除するのも簡単だから、何でも出来る」

「ここ以外で、検査部隊がレールガンに近づく機会はないんでしょうか」

「そりゃ、夜中にホテルを抜け出して衛兵隊を突破すれば近づけないこともないだろうが、そんなことをするくらいなら何も検査部隊に紛れてテロ工作をやる必要もないだろう。実地検査の時なら、VIP待遇で最敬礼を受けながら、悠々と工作ができるわけだからな。何を仕掛ける気かは知らんが、実行時間はそこに絞って間違いないだろう」

「問題は、我々がそこにどうやって入り込むか、ですね」

「多少は荒っぽいことも、考えておかなきゃならんだろうな」

 大南はにやりとした。

「少尉は、短針麻酔銃の扱いは自信あるか?」

「前回受けた定期実技試験だと、一応Aランクには入りましたが。しかし、実戦で撃ったことは……」

「当然、俺もない。ま、あとはその場の成り行き次第だな」

 大南は軽い口調で話を締めくくった。


 あまりにも簡単にテロの実行時点が絞り込めたことに少し戸惑いながらも、テロの決行時期が恐らく五日後だということを、鹿賀は園部怜子にホロメールで伝えた。

 ただし、計画の阻止はこちらでやるから心配はいらない、信頼できる先輩もいるのだということも、彼はちゃんと伝えた。

 だが、彼女は返信のメールで、彼に強く訴えかけてきた。


「わたしも、そのメンバーに加えて下さい。できることなら、わたしが兄を説得します。馬鹿な計画に加担するのはやめて、って」

 彼女の立体像は、懸命な表情を浮かべてそう言うのだった。

 今回の作戦には危険が伴うかもしれないこと、むしろ女の子なんか連れて行ったら足手まといになるのだとまで言って、彼は怜子を思いとどまらせようとした。

 しかし、再び彼女から届いたホロメールの内容は、彼女の決意がいささかも揺らぐものではないことを伝えてきた。


 仕方なく彼は、馬鹿かお前はと言われるだろうことを承知の上で、大南少尉に一応このことを伝えてみた。しかし、大南の返事は予想外のものだった。

「なるほど、その怜子ちゃんには、そこまでの強い気持ちがあるわけだな」

 と絨毯にあぐらをかいた大南少尉はうなずいた。

「分かった。一緒に連れて行こう」

「本気ですか」

 自分が相談したくせに、鹿賀は驚きの表情を浮かべた。

「もしかしたら、その兄さんってのを説得して、寝返らせることが出来るかも知れん。怜子ちゃんの出番が、ないとは言えないな」

「そんなことが」

 可能とは思えませんが、と鹿賀は首を傾げた。

「説得のやり方にも、色々あるさ。何なら、その娘に銃を突きつけて脅して見せればいい。ククク」

 大南は、悪代官丸出しの顔をして見せた。

「それはひどい」

「いや、もちろん芝居だよ。怜子ちゃんに協力してもらうのさ。新喜劇の定番だろ? まあ、その兄さんが骨の髄までテロリストなら、そんなやり方じゃ無駄だがな。たとえ妹でも、大義の前には犠牲になってもらうとか言うだろう」

「なるほど、そういう作戦ですか」

 彼は納得してうなずいた。

「とりあえず彼女には、正式な許可を得て基地に入ってもらうことにしよう。手はちゃんと打っておく」

 大南は、わずかに目を細めてそう言った。

(続き)

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