146 陽炎

「あなた何」

 紗那は宙に浮く黒い陽炎に問いかけた。

「う~ん。幽霊!」

 紗那が驚いて後ずさりすると、

「なんちゃって。テヘペロ」

 と陽炎は微かに揺らめいた。

「あなた何時代のどこの住人なのよ。この都市に不釣り合いな存在ね」

 紗那は表情のない顔で言った。

「お姉ちゃん。私のこと見えるんだね。凄い凄い」

「やっぱり幽霊なの?」

「う~ん。わかんない」

「それに、お姉ちゃんって年でもないのよ私。そう言われるのは嬉しいんだけど」

「お姉ちゃんは何しにここに来たの」

「息子を探しに来たの。摩主楼っていうんだけど。知らない?」

「知らない」

「ここ以外にも街はあるの?」

「うん。あるよ」

「この街に人は住んでいないの?」

「いない」

 紗那の目の前で陽炎の揺らめきは、大きくなったり小さくなったりを繰り返した。

 

 紗那は街を一通り探索してみたが、陽炎以外に人間を見つけることはできなかった。

「他の街にも行ってみる?」

 出会ってから紗那の後にずっとくっついてきた陽炎が言った。

 さらに歩いて24時間後、無人都市の端にそびえたつ巨大な円柱に二人は辿り着いた。

「これで上に行くの」と言うと、陽炎は壁をすり抜け円柱の中に入っていった。

 しばらくすると紗那の目の前の壁が真っ二つに割れ始めた。それは巨大な扉だった。扉の奥から陽炎が現れた。

「こっちこっち」

 中は半球状の何もない空間だったが、その空間の中心にはドームがあった。ドームの上部から、さらに円柱が上方に向かって伸びていた。ドームの前に二人が経つと自然と扉が開いた。入って右側の壁に階層を示す数字が刻まれたボタンが設置してある。

「ここ。ここ」

 陽炎から細長い腕のような輪郭が現れると41のボタンを指し示した。ボタンを押す紗那。扉が閉まりドームが円柱を伝い上昇していく。


 3日後、ドームは上昇するのを止め、再び扉が開いた。

 ドームを出て、半球状の空間の外に出ると砂漠が広がっていた。砂漠のところどころに、崩壊したビルや原形をとどめそびえたつビル、集落と思しき簡易テントが密集した地域を確認することができた。


 二人は集落を目指し歩き始めた。

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