138 少年と少女

「ダメだよ。お母さんが地上に出ちゃダメって言ってたでしょ」

 少女が少年の袖を引っ張る。


 崩れた幾つもの高層ビルが折り重なり鉄筋をむき出しにしている。

 その瓦礫の袂で崩れた廃墟をよじ登る少女と少年の姿。

「待ってよ!お兄ちゃん!」

 少女を無視して歪な形状のコンクリートをよじ登っていく少年。


「ついてくるなって言っただろ」


 足音が遠くから近付いてくる。


「バカ。あっち行けって、見つかっちまうよ。連れ戻されるのはごめんだぞ」

「お兄ちゃあぁん!!」

 少女はその場に座り込み泣き出した。


「誰だ!」

 男の声がすると走り寄る足音が少女に近づいていった。

 少年は少女をその場に置き去りにしたまま、上へ上へと廃墟の高層へと登っていく。

「おい! 君、戻れ! 戻りなさい!!」

 少年に向かって声を上げる男。


 少年は男の声を意に介さず登り続け、姿はみるみる小さくなって男の視界から消えてしまった。

 遥か下方から妹の泣き声が聞こえてくるが、後戻りはできない。


 この目で確かめるんだ。

 少年は自分自身に言い聞かせた。

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