91 視察
「お久しぶりです。ナシェエル様」
ジェイマス・ロスタイルデは言った。以前はラファエルと名乗っていたその人物は、ナシェエルによって記憶を消され、ナシェエルが作り出した偽りの記憶を植え付けられていた。
ロンドン郊外にある、ジェイマスの私邸、ワトソンダン館の応接室で一人掛けのソファに座り、ジェイマスとナシェエルは向かい合っていた。
『裏切者にはそれ相応の報いが必要だ』ミカエルはナシェエルに指示を与え、ラファエル、ウリエル、ガブリエル、三人の裏切者に対する罰を与えた。
3人は自分自身を神に選ばれた特別な人間だと思い込み、エアの住人であったことも忘れ、ナシェエルとミカエルを神の御使いだと思い込んでいた。今では自らを元来の地球人だと疑いの余地なく認識し、地球人として社会に溶け込んでいた。
ミカエルとナシェエルによって滅ぼされた火星とエアの住人は地球へと転生していたが、彼らが再び、ミカエルに反旗を翻さぬよう監視する役目を地球人となったラファエル、ウリエル、ガブリエルに与えていた。
「仕事の調子はどう?」
ナシェエルが口を開いた。
「順調です。癌を89.3%の確率で誘発する穀物、野菜、食肉、海産物の開発と各国への流通。世界中に広がる諜報と工作のネットワークによる紛争の誘発。これらを組み合わせた、金融市場、為替のコントロールが、効率的な人口削減を可能にします。お望みとあらば、数十年でこの星の人間を絶滅させることもできます」
「いかにも凡夫らしい発想だね。たったこれだけの人口をゼロにするのに、それだけの時間が掛かってしまうのかい?」
ナシェエルは笑った。
「何か新しい術でも開発されたのですか」
「うん。まあそうだね。しかし、ミカエル様は気が乗らないようだ。地球人に愛着でもわいてしまったのかな。困っちゃうよね」
ジェイマスは突然、顔をしかめ黙り込んだ。
「君は相変わらず、ジョークというものを解さないんだね」
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