第11話

僕と彼女は公園の森でフクロウの姿を見たのだろうか。

彼女は「また来たい」という。

だが、危険な生物も生息している森に彼女を連れていくのはどうかとも思う。

僕たちは公園の売店で飲み物を買ってベンチに並んで腰かけた。

「あれはフクロウで間違いないですよね」

「僕もそう思うけど、全身を見たわけじゃないし」

「もう一度行きましょう。それも夕方にでも」

「この公園は午後5時で閉まるんだよ」

「夕方から夜にかけてが一番活動的になるんですって」

「でも公園の人に見つかったら怒られるよ」

「見つからなければいいのよ」

彼女は意外と大胆な人だということが分かった。

「でもマムシも怖いし」

「だったらもう少し寒くなってからにしましょうよ」

彼女は生き生きしていた。

女の方がいざというときに度胸があるというけれど本当にそうだと思った。

その夜から僕はフクロウの夢を見るようになった。

僕の部屋の前には大きな木がある。

窓にくっつきそうなくらい枝が伸びている。

ある夜その窓の外の枝にフクロウがいて、部屋の中を覗いていた。

まっすぐで大きく丸い瞳でじっと僕を見ていた。

それが彼女と重なったのだ。

彼女に見られている。

彼女に観察されていると思った。

もちろんそれは夢であったが、フクロウが登場する夢は一度や二度ではなかった。公園の帰り道僕は悩んでいた。

今度いつ会えるかという約束をどう取り付けるかということだった。

ラインは通わしているので連絡に困ることはなかったのだが、やはりその日のうちに次のデートの日を決めないと不安だった。

だがそのきっかけを失ってまま別れてしまった。

彼女からも次はという言葉は出なかった。

僕は後悔した。

フクロウをもう一度見ようという曖昧な約束はした。

それはすぐの話ではない。

今は5月だから寒くなるのは11月だからまだ半年も先のことだった。

それまで会わないということは考えられなかった。

僕にとっては。

いや、それはあくまでも僕にとってはという話だ。

彼女は違うのかも知れない。

僕と彼女では付き合い方に根本的な違いがあるのかも知れない。

彼女は最初のデートで高校へ行く意味について話して来た。

初めてのデートにはふさわしくない話題だった。

そして次のデートではフクロウを見に行った。

僕は彼女といられることだけでも楽しかったのに、彼女はもしかしたら僕と会う意味が違うのではないか。

僕と会うのは、年上である僕に何らかの「依頼」があるのではないか。

高校へ行くという意味への明確な答え。

フクロウを見るということの補助。

そんな役割を僕に期待しているだけで、僕と会いたいからではないのではないか。そう考えると怖くなった。

彼女は僕を好きなのではなく、頼れる存在としかみていないかも知れない。

だが待て。

頼るということも一つの好意の現れなのかも知れない。

そうなると、やはり彼女は僕を好きだということになる。好きということは「付き合っている」ということになる。

だから僕たちは「恋人」ということになる。

つまりカップルだ。

そう考えると頭のなかが明るくなった。

だが、待てよ。

そうなると次のデートが一つのカギになるぞ。

つまり彼女とはフクロウを見るという約束は出来ていた。

それは半年後のことだ。

次のデートのことはまだ何も決まっていない。

彼女は別れ際に「さようなら」と言った。

それはどういう意味なのか。

もう会えないという意味なのか。

僕はそんな思いが堂々巡りしていた。

次のデートを誘うことでこの答えが出ることは分かっている。

それを思うと一気に心がざわざわしてくる。

高校受験のときよりも重い気分になる。

合格発表をパソコンの画面で見るときよりも緊張してくる。

どうしよう。その言葉がさっきから何回も現れては消えていく。

いつまでも続く。

僕はベッドに潜って毛布を頭までかぶって目を閉じた。

そこにはまた彼女の姿が思い出された。

桜の木を見上げている彼女の姿だった。

明日は公園で会えるだろうか。

でもお互いに時間がない場所だからすれ違いざまに挨拶するだけだ。

そこで話すことは出来ない。

出来てもひとことふたこと言葉を交わすことだけだった。

とにかくラインをしてみよう。

それだけでもいい。

僕はスマホを取った。

「またフクロウに会いたいね」

そうラインした。

「わたしも」という返事がすぐに来た。

僕は素早く近くのモールの映画館でやっている映画をピックアップしてみて、彼女と僕が見るのにふさわしい映画を見つけた。

「来週この映画を観に行かないか」

そうラインした。

「来週は家族で出かけるの」

そう答えが来た。

手が震えた。

断られた。

僕は背筋に汗が滲みだすのを感じた。

やっぱりという思いもあった。

彼女のような人が僕を好きなわけがない。

最初に考えていたとおり彼女にとって僕は単なる「頼りになる人、先輩」だったのだ。

落ち込んでいると彼女からラインが来た。





#12に続く。





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