第2話

桜が開花して5日目だった。


少女はその日も同じ姿勢で桜の木を見上げていた。

公園の東側にある桜の木の一群のなかには花びらが落ち始めている木もあって、地面には桜色が散らばったのを見ると後何日桜は散らないのだろうかと考えた。

できればなるべく遅くまで散らないで欲しい。

強い風は吹かないで欲しい。

雨も降らないで欲しい。

僕は心のなかで思った。

少女のためだった。

それは彼女を見られるからだ。

一日でも多く見ていられるようにしてもらいたい。

祈るような気持ちだった。

彼女は、見上げていたが、一瞬僕に振り向いた。視線を感じたからだろうか。

はっきりと目が合った。その間は1秒もなかったのではないか。

本当に一瞬のことだった。

僕はときめいた。

黒目の大きいきりっとした瞳だった。

私は不安になった。

彼女が振り向いたのはなぜなのかということを考えたら、もしかして僕のことを不審者と思ったのではないか、ものごとをネガティブに考えがちな性格がより思いを加速した。

明日は来なくなるかも知れない。

そう考えると学校に行ってももう彼女が見れなくなるという思いが授業中であれ、休み時間でさえ去来してきてその一日は朦朧としたなかで過ぎていった。

次の日はもう半分の気持ちでは諦めていた。

彼女の姿が見れなくなっても落胆の度合いを浅くするために、前の夜に自己防衛本能が働いて、彼女のことを忘れるための心の操作をしてきたのである。

「どうせ、見ているだけなんでどうってことない」

「自分には縁のない人だった」

などと妄想して自分の気持ちを下げることをしてきた。

公園の東側の桜の木たちは4割ほどの花びらを失っていた。

地面には徐々にピンク色の欠片で埋まってきている。

丘の上の桜の木も次第に花びらが落ちてきているようだった。

彼女はいつもの姿勢で見上げていた。

「わっ」と声を上げそうになった。

「僕のことを用心していたんじゃなかったんだ」心のなかで呟いた。

そもそも振り向いたのは偶然だったのだろう。

1秒にも満たない時間しか僕を見なかったので、僕のことが果たしてちゃんと見れていたのかどうかも怪しいものだ。

今日は振り向いてはくれなかった。

少し歩いて私が振り向くと彼女は下を向いて歩き始めていた。

僕が振り向いたのは今日が初めてだった。

今まで振り向かなかった理由は分からない。

彼女の後姿の余韻が振り向かせない何らかの力を出していたのだろうか。

とにかく、振り向いたのは初めてだった。

次の日も彼女はいた。

公園の桜はもうほとんどが花が散っていて、丘の上の桜の木だけがまだ辛うじて2分くらいの花が残っていた。

前の日に激しい雨が降り、花を落とさせたのだった。

僕は雨が恨めしかった。もう彼女は現れないか

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