第417話 激戦を終えて


レアたちも目覚めたようだ。

アニム王はレアたちに労いの言葉をかけ、後方の神聖術師たちの方へ向かう。

レアのロイヤルガードの大剣を背負っているアウラが、アニム王に肩を貸していた。

俺もフレイアと一緒に優たちのところへ向かって行く。


邪神王が消えると、とてもきれいな星空が広がっていた。

空間もものすごく澄んでいる感じがする。

優たちも普通の状態に戻り、あれ? 邪神王はどうなったの? なんて気軽なことを口にする。


それぞれの魔力も回復してきているようで、セレネーが回復魔法をみんなにかけてくれた。

桃色の髪の美人だ。

俺は思わず回復のお礼を言いに行った。

そこまでは良かったが、両手を握ってしまった。

俺は驚いた。

まさか、こんな美人がいきなり怖い女に変身するなんて。

「・・手を放せ、このビチクソがぁ!!」

女の人の言葉の威嚇はかなり怖いなと感じた。

そういえば、嫁の無言のプレッシャーも何とも言えない感じがするからな。

レアが急いでセレネーに言葉をかけると、一瞬で美人に戻っていた。

レアって凄いな。

その後はレアが俺にまとわりついてうっとうしかったが、俺の横ではフレイアのボディブローが炸裂して、何か戦いよりも疲れる感じがした。


アニム王が現場を見ながらつぶやく。

「・・ウベールたちには気の毒なことをした。 まさか山頂が吹き飛ばされるとは・・」

アニム王がそこまで口にすると、言葉が聞こえてる。

「王様、問題はないかと思います」

土まみれになったアリアンロッドが歩いてくる。

「アニム様、何もお役に立てず申し訳ありません。 ウベールですが、飛行船に乗っておれば何とか最悪の状態だけはまぬがれているかと思います」

アリアンロッドがアニム王の前で片膝をついて報告していた。

「アリアンロッド、無事で何よりです」

アニム王はうれしそうに報告を聞いていた。


アリアンロッドが俺の方を向いて軽く頭を下げる。

「テツ殿、この度は大変お世話になりました。 王国として感謝の言葉もありません」

「いえ、私はただ夢中で・・」

俺は焦ってしまった。

まさかこんな言葉をかけられるなんて思ってもみなかった。


アニム王が空を見上げて言う。

「この場にいるみんなに聞いてもらいたい。 本当にありがとう。 我々は生き延びることができた。 邪神王を退けることができた。 邪神王は我々が考えているような単に邪悪な存在ではなかったようだ・・」

アニム王が静かに話している。

・・・・

・・・

結局、邪神王という存在は、何らかの偏った意思の積み重なったエネルギーの集合体ということだろうと推測された。

だからこれで安全というわけではない。

生きるものがいる限り、形はどうであれ現れるものだろうということだ。

ただ、今回は我々に天秤が傾いたに過ぎない。

アニム王はそんな内容を簡単に話してくれた。

みんながうなずきながら真剣に聞いている。

そんな時、上空に飛行船が現れてきた。

アリアンロッドが急いで避難させたものだ。


俺たちはみんなで飛行船に乗り、ゆっくりと帰路につく。

後でわかったことだが、ウベールを乗せた飛行船はかなり吹き飛ばされていたらしく、俺たちの帰還後、数時間位して無事到着していた。


◇◇


<帝都への帰路>


飛行船の中では、質問やら笑い声やらの嵐だった。

優とレイアは笑いながら俺を見ている。


フレイアはどうして一言も言わないで修行に行ったのかと俺に詰め寄る。

レアは目をキラキラさせながら、テツ様、テツ様とうるさい。

レアのロイヤルガードたちの目が殺気だって俺を見るのは、気のせいではないだろう。

騎士団長も笑いながら見ているだけだ。


ただ、衝撃的なことがあった。

アリアンロッド、男だと思っていたが女の人だったようだ。

男に見えるのだがな・・。

それを聞いて、マジマジと見たときにフレイアの攻撃をくらう。

これが一番しんどい。


後は気になっていた神聖術師たち。

美人さんを確認していたから、その人に一言挨拶したいと思っていた。

とにかく命がけで挨拶できたが、人妻ということだった。

おいおい、神聖術師だろ?

結婚してるっていったい?

俺がへこんでいるところへ、フレイアの一発は痛かったな。

少しも休まることなく、俺たちは帝都へ到着した。


後でわかったことだが、アニム王の戦闘について。

戦闘中にその場にいるすべての人に、光の神の加護を付与していたそうだ。

王様のスキルというか呪いというか、戦闘などではその場の光の神の庇護下にあるものに、強制的に魔力が奪われる。

ほんの少しずつだが、数が多ければそれだけ王の負担が多くなる。

通常なら王は中央か後方で待機しているらしい。

戦わないのではなく、戦えないのだ。

だが、このアニム王は常に激戦の中でいる。

そんなことをアリアンロッドが教えてくれた。

俺はそれを聞いて納得。

アニム王のレベルは相当高いだろう。

だが、それには理由があるのだと。

俺ら冒険者みたいに自分が強くなればいいというものではない。


本当にお疲れ様でした、アニム王。

俺は心の底からねぎらいの言葉と、尊敬の念を込めてアニム王を見ていた。


◇◇

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